第133回日本応用磁気学会研究会, 第7回ハイブリッド記録専門研究会報告
「胎動期を迎えた光・磁気ハイブリッド記録」
日 時: 2003年12月9日
場 所: 日本大学理工学部 駿河台校舎
参加者: 93名
講演内容
- 「磁気と光の融合ストレージ技術の展望と課題」
太田憲雄(日立マクセル)
磁気記録と光記録とを融合させたハイブリッド記録(熱アシスト型磁気記録とも称される)の将来性をレビューした。超高密度記録領域での従来の磁気記録の持つ隘路(熱揺らぎ、必要記録磁界の増大に伴う困難)を原理的に打開できる有力な手段となる。熱をかけることに対する危惧(熱による記録磁区のにじみ、遅い記録速度)はむしろ逆であり、ハイブリッド記録であるが故に有利な要素になることも原理実験で示した。
- 「シミュレーションを用いた熱アシスト磁気記録高密度化の検討」
吉浜勇樹(慶應大)
熱アシスト磁気記録の高密度化を目指し、記録ビットの生成過程をLLGシミュレーションすることで記録メカニズムを検討した。その結果、超高密度記録を実現するための微細磁区を記録するためには、熱印加領域の縮小化、熱印加時間の短縮化が必須であることを確認し、3ビットの連続磁区形成モデルのシミュレーションでそのことを確認した。
- 「磁界変調熱磁気記録における微小磁区形成過程のシミュレーション」
加藤剛志(名古屋大)
TbX(Fe78Co22)100-X膜に磁界変調記録により孤立マークを形成する際の熱磁気記録過程をHuthモデルに基づいてシュミュレートし、微小磁区形成には、温度勾配とそれにより生成される保磁力勾配が重要な役割を果たすことを明らかにした。 また、この結果を踏まえ、ハイブリッド記録における媒体設計、記録方法の検討を行った。
- 「磁気転写によるHDDのサーボ信号記録技術」
石田達朗(松下電器)
HDDのサーボ信号記録における技術的・コスト的課題を解決するため、磁気転写記録によるサーボ信号記録技術を提案した。実用信頼性課題を解決すると共に、垂直磁気記録媒体への応用可能性についても明らかにした。
- 「ディスクリートトラック型垂直磁気記録媒体」
大川秀一(TDK)
隣接トラックからのクロストーク低減効果などがあるディスクリートトラック媒体の作製方法について紹介した。また磁気特性および浮上安定性に関する評価結果も併せて報告があった。
- 「TbFeCo/CoCrPtB複合垂直媒体の記録特性と揺らぎ」
宮下英一(NHK)
グレイン構造膜と連続膜を積層した複合垂直媒体は、高密度記録特性と熱安定性を両立できる媒体として期待されている。C0CrPrB膜厚を25nm一定とし、TbFeCo膜厚を0~15nmと変化させた複合垂直媒体の記録特性を測定し、少ない熱緩和と高密度記録を両立する最適TbFeCo膜について紹介があった。
- 「SiO上FePt配向膜とそれを下地としたTbFeCo 積層膜の磁気特性」
伊藤彰義(日本大)
超高密度記録媒体を目指し、磁気抗磁力Hwの増加を、垂直磁化を有するFePt規則合金微粒子膜と従来の光磁気記録の複合膜により試みた。急速昇温処理により平均粒径7nmのFePt膜を作製した。交換結合によりFePt下地上のTbFeCoの抗磁力、磁壁抗磁力の増加に成功した。
もともと1958年にMayerにより世界で始めて実験がなされた熱磁気記録は、光磁気記録で開花し、半世紀を経過しようとしている現在、熱揺らぎ限界をうち破るハイブリッド記録の展開へと更に飛躍しようとしている。しかしながら、磁気記録と光記録の総合技術力を背景に発展すべきハイブリッド記録は、まだまだ研究の緒についたばかりであり、必ずしも多くの研究機関で様々な検討が行われている段階ではない。正に、あちこちでささやき始められたものの研究成果が世に出る前の胎動期そのものである。このような中で、93名という予想をはるかに越える多くの方々にご参加いただけたことは、将来のハイブリッド記録への熱い期待を伺い知ることができると共に、近い将来、優れた研究成果が続々と発表されることを予感させるに十分な成果であった。