日本磁気学会第200回研究会/第51回化合物新磁性材料専門研究会報告

「磁性材料の作製と評価手法 ~大型実験施設を用いた材料評価~」

日 時:
2015年1月13日(火)13:00~17:20,1月14日(水)9:00~12:10
場 所:
いばらき量子ビーム研究センター
参加者:
42名

 第200回研究会では、磁性材料評価手法として大型実験施設を用いた手法にフォーカスし、2日間にわたり8件の講演が行われた。放射光・中性子・ミュオン実験手法に馴染みのない方に、それぞれの実験手法でどのような結果が得られるのか、各専門家に丁寧に解説・紹介していただいた。研究会には、企業・大学・研究所と多岐にわたる所属の方に参加いただき、活発な議論が行われた。研究会1日目には、大強度陽子加速器施設J-PARC物質・生命科学実験施設MLFの見学ツアーがあり、中性子実験装置及びミュオン実験装置を見て回った。実験ホールでは、実験装置や試料環境機器(冷凍機、超伝導磁石など)の前で、具体的な測定に関する議論などが行われた

  1. 「磁性材料の作製(磁性材料のトレンド、放射光・中性子・ミュオンに期待すること)」
    ○庄司哲也(文科省)

    磁性材料のトレンドとして、元素戦略プロジェクトで行われている研究の紹介が行われた。磁石材料制御には、結晶粒、粒界相、結晶/粒界相関の界面構造などナノレベルでの組織制御による特性向上が必要であり、そのための放射光、中性子、ミュオンなどの量子ビームを活用した分析・解析技術の重要性について解説していただいた。また、世界的な材料研究の動向を考慮した今後の量子ビーム応用分析・解析技術の発展への期待について紹介いただいた

  2. 「光電子顕微鏡を用いた表面界面磁性研究」
    ○小嗣真人(SPring-8)

    光電子顕微鏡(PEEM)は、試料表面から放出される光電子の空間情報を、数十nmの空間分解能で直接可視化できる電子顕微鏡の一種である。放射光を用いたPEEMでは、X線吸収測定の空間情報が得られること、円偏光及び直線偏光放射光を用いることで磁性多層膜の磁区構造を観測できることなど解説していただいた。また、PEEMによるL10型FeNi磁石の最近の研究内容を紹介していただいた。

  3. 「中性子反射率法による埋もれた界面の構造評価」
    ○武田全康(JAEA)

    物質内部に埋もれてしまっている界面のナノ構造を非破壊的に観測する方法として、中性子反射率測定法を解説していただいた。中性子反射率測定では、中性子を非常に浅い角度で物質表面に入射し、各界面からの反射中性子がつくる干渉縞を観測する。干渉縞の数や位置、その強度、線幅などから界面を含む薄膜内部のナノ構造を定量化できることを、NiC/Ti多層膜の実験例をもとに紹介していただいた。

  4. 「ミュオンによる材料評価(通常のバルク試料~超低速ミュオンによる薄膜測定まで)」
    ○小嶋健児(KEK)

    ミュオンはJ-PARC MLFの他、世界の4カ所で利用可能な、物質中の局所磁場に感度を持つ磁性プローブであり、放射光や中性子のような回折測定とは異なり、物質中にミュオン粒子を止めてミュオンが止まった位置の内部磁場を観測する。適用範囲が広いものの、中性子に比べ、材料・物性研究者に紹介されることが少ないミュオンスピン緩和(μSR)を磁気回折との相補性に着目しながら分かりやすく解説していただいた。

  5. 「走査型透過X線顕微鏡による磁性材料の磁区観察」
    ○小野寛太(KEK)

    走査型透過X線顕微鏡(STXM)の観測原理、実験手法の紹介に続き、Nd-Fe-B焼結磁石においてSTXM像で明確に磁区を観察できること、更には観測した磁区の形状を解析することにより、トポロジカル欠陥に基づく解析が行えることを解説していただいた。また、STXMにより観測した磁化分布像より、磁気双極子相互作用及び交換相互作用を可視化することで、Nd-Fe-Bナノ結晶磁石の磁化反転過程では、交換相互作用による影響に比べて磁気双極子相互作用の影響が強いことが紹介された。

  6. 「X線コンプトン散乱による強磁性材料評価の新視点」
    ○櫻井吉晴(SPring-8)

    X線磁気コンプトン散乱は放射光施設の発展とともに進歩してきた実験手法である。同実験により、ミクロな磁気量子数別軌道のスピン分極として、マクロな磁気分極を捉えることができる。また、スピンモーメントの定量的評価が可能であり、従来の磁気計測手法との併用により、スピン・軌道分離が可能である。講演では、磁気多層膜の垂直磁気異方性と軌道別スピン分極の実験などいくつかの研究例を紹介していただいた。

  7. 「中性子小角散乱法による磁性材料評価」
    ○鈴木淳市(CROSS)

    中性子小角散乱法は、数ナノメートルから数マイクロメートルのサイズの構造評価法として、物質科学、生命科学、材料科学等の広範な科学分野で利用されている。講演では、測定原理・手法について丁寧に解説していただいた。また、磁性材料評価として、偏極中性子ビームの有益性について実験例を示しながら、磁気構造解析や磁気相関を評価する方法について紹介していただいた。

  8. 「偏極パルス中性子を用いた磁性材料内部の磁場分布の可視化」
    ○篠原武尚(JAEA)

    中性子を用いたイメージング技術は、中性子の特徴を活かすことでX線や電子線と異なるコントラストを得ることができ、水素を多く含む試料や大型の試料の内部構造を観察することができる。一方、中性子は磁気モーメントを有するために磁場と直接相互作用することができ、磁場空間通過後の中性子の状態を調べることにより、磁場分布に関する情報が得られる。講演では、Ni3Alの強磁性転移温度TCの分布のイメージング像などの実験例をもとに偏極中性子を用いた磁気イメージングについて解説いただいた。

文責:大石一城(CROSS)