日本磁気学会第198回研究会/第61回ナノマグネティックス専門研究会報告

スピントルクと次世代の磁気記録への展開

日 時:
2014年11月21日(金) 13:30~16:45
場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
46名

 スピントルクオシレータを用いた新しい磁気記録をテーマとして研究会を開催した.全四件の講演で構成され,理論的解析および実験に基づくスピントルクによる磁化の自励発振についての導入の後,企業の研究者から新たな記録方式についての紹介と進捗の報告とがなされた.スピントロニクスと磁気記録の二つの分野にわたる話題であったこともあり,幅広い領域の聴衆が参加し,非常に活発な討論が行われた.

  1. 「スピントルクによる自励発振の物理」
    ○今村裕志,荒井礼子(産総研)

    自励発振の物理的な定義とその具体例を紹介に続いて負性抵抗発振器とスピントルクオシレータの類似性について述べ、スピントルクが負性抵抗として振る舞うことで自励発振が生じることが示された。その後、円柱型トンネル磁気接合におけるスピントルク自励発振について具体的な解析を行い、閾値電流、発振周波数、状態図などの求め方について解説がなされた。その解析を通して、スピントルクによる自励発振の軌道が緩和によるエネルギー散逸とスピントルクによって注入されるエネルギーとが釣り合う等エネルギー軌道であること、および発振周波数は等エネルギー軌道の歳差周波数で与えられることが示された。

  2. 「スピントルクによるナノ磁性体の高周波スピンダイナミクス」
    三輪真嗣,○鈴木義茂(阪大)

    強磁性トンネル接合の高周波特性について、外部から高周波信号を与えた場合の挙動を中心に紹介があった。トンネル接合に高周波電流を加えると(線形/非線形)強磁性共鳴を生じ、非線形強磁性共鳴を用いることにより半導体を超える高周波検波感度とS/Nを示すダイオードの実現が可能であることが示された。この性能は、より小さな素子でより高くなると考えられるが、この状態では非線形マグノイズと呼ばれるノイズが支配的となる。このようなノイズは磁化が感じるポテンシャルの対称性を制御することで制御可能である。発振状態にある素子にさらに高周波電流を加えるとその強度の増加に伴い、位相ロック→分数位相ロック→カオスの発生へと変化するという理論的予想について述べられた。

  3. 「高周波磁界発生デバイスとしてのスピントルクオシレータ -マイクロ波アシスト記録の要-」
    ○五十嵐 万壽和1,城石芳博2 (1HGST,2日立)

    マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)に用いる主磁極-トレーリングシールドギャップに形成されたスピントルクオシレータ(STO)の動作原理とその必要な仕様について報告された。STOの直流電流駆動を可能とするギャップ磁界追従型スピン注入層(SIL)を用いて、磁界創生層(FGL)磁化の積層面内回転を実現することにより高記録密度化を達成するため、FGL、SIL材料・構造の改良が重要であることが示された。

  4. 「スピントルク発振素子を利用した磁化方向の共鳴読み出し」
    ○首藤浩文,永澤鶴美,工藤 究,水島公一,佐藤利江(東芝)

    スピントルクオシレータ(STO)を用いた新たな磁化方向の読み出し手法である,「共鳴読み出し」の実証実験の報告があった。この読み出し手法は,STOと読み出し対象の磁性体との間のダイポール磁界を介した動的なカップリングを利用し,その磁化方向を,STO信号を通じて検出するものである。この原理によって,共鳴読み出しは,読み出し対象の磁性体の近くに他の磁性体があっても,選択的な磁化方向読み出しが可能であり,記録層を多層化する3次元磁気記録における読み出し方法として期待される。STOと読み出し対象の垂直磁化膜を積層したピラー型の素子を用いて実験をおこない,カップリングに起因したSTO信号の変化を通じて磁化方向が検出できることが示された。

文責:菊池伸明(東北大)