第192回研究会 報告

「磁性薄膜形成技術の向上と新展開」

日時: 2013年11月19日(火) 13:00~17:20
場所: 中央大学駿河台記念館
参加者:35名

第192回研究会では,磁性薄膜を用いたデバイスの応用にとって重要な薄膜形成技術やナノ構造形成技術に着目し,最先端研究の紹介と今後の展望について6名の研究者を招いて講演頂いた.スパッタ法,塗布光照射法,めっき法,溶液合成法,パルスレーザー堆積法といった様々な技術を用いた研究が報告され,たいへんバラエティーに富む興味深い研究会となった.各講演の概要は以下のとおりである.

講演内容:

  1. 「磁性多層膜量産装置の現状と課題」
    ○恒川孝二(キヤノンアネルバ)

    磁性多層膜量産装置に関して,HDDの磁気ディスク,磁気ヘッド,およびスピントルク書込み型MRAM(STT-MRAM)用のスパッタ装置を例に挙げ,各アプリケーションにおける現状と重点課題について紹介いただいた.磁性多層膜はnmオーダーの磁性および非磁性膜が幾重にも積層された複雑な膜構成を成しているため,量産においては他の薄膜デバイスには無い特有の困難さがあること,さらにはその課題への取り組みが報告された.

  2. 「熱アシスト磁気記録用FePtグラニュラー薄膜の微細構造と磁気特性」
    ○高橋 有紀子(物材機構)

    FePtグラニュラー薄膜の熱アシスト磁気記録(HAMR)媒体としての実用化を目指して,微細構造制御と磁気特性の相関に着目した最近のご研究が紹介された.FePtAg-Cグラニュラー膜はHAMR媒体としての実現可能性を示すことが報告された.一方,大きな磁化反転磁界分布や面内磁化曲線のヒステリシスの起源,キュリー点制御などの問題があり,実用化には多くの課題を克服する必要があることも報告された.

  3. 「パルス紫外光下で起こる酸化物薄膜の結晶成長と磁性薄膜への応用」
    ○中島智彦,篠田 健太郎,土屋哲男(産総研)

    次世代デバイスの構築に欠かせない酸化物薄膜の低温製膜について,塗布光照射(ELAMOD)法についての最新のご研究が紹介された.ELAMOD法は化学溶液法と紫外レーザー照射を組み合わせた手法で,酸化物薄膜製膜温度の大幅な低減に成功されたことが報告された.さらに,レーザー照射下の結晶成長機構と応用について概説頂いた.

  4. 「ウェットプロセスによる高機能磁性薄膜の創製」
    逢坂哲彌,○蜂巣琢磨,杉山敦史,横島時彦(早稲田大)

    原子界面設計の概念に基づき,電極界面構造やその現象に対して原子や分子スケールレベルでのコントロールにより開発を進められてきためっき薄膜作製についてのご研究が紹介された.特に,高機能化エッセンスと,エレクトロニクス分野を始めとする様々な応用への取り組みが報告された.

  5. 「液相合成によるナノコンポジット磁石の創製」
    ○寺西利治(京大)

    次世代高性能永久磁石として,近年注目を集めているナノコンポジット磁石についてのご研究が紹介された.α-Feを軟磁性相に,L10-FePd を硬磁性相にもつナノコンポジット磁石の化学合成とナノ構造の最適化についての取り組みが報告された.

  6. 「パルスレーザー堆積法による磁性酸化物薄膜のエピタキシャル成長」
    ○福村知昭,T. S. Krasienapibal,長谷川 哲也(東大)

    酸化物薄膜の作製法として有力な手法であるパルスレーザー堆積法についての詳細な技術についてのご研究が紹介された.また,次世代エレクトロニクスとして期待されている半導体スピントロニクス等に関わる酸化物薄膜材料の作製についての取り組みが報告された.

文責:介川裕章(物材機構)