第177回研究会・第42回ナノマグネティクス専門研究会報告
「最先端情報ストレージ技術」
日時:2011年9月27日(火)10:00~16:15(学術講演会期間中)
場所:朱鷺メッセ 学術講演会A会場
参加者:120名
本研究会は3月18日に予定されていましたが,震災のため延期されていたものです.学術講演会期間での開催にあたっては,講演者,磁気学会関係者に多大のご配慮を頂き感謝しております.本研究会は、情報ストレージ技術の中核をなし、新しい分野にも展開しつつある磁気記録装置だけでなく、他のストレージ技術・装置をも取り込み,情報ストレージを広く議論する目的で企画したものである.従来の磁気記録技術を本流として据えつつも,従来発表の場が少なかった新しい情報ストレージ技術を活発に議論することができた.
講演内容:
- 「ビットパターン媒体の課題と将来展望」
○本多直樹,山川清志*,有明順*,近藤祐治*(東北工大,*AIT)
ビットパターン媒体(BPM)ではドット間静磁気相互作用が高密度化の制限要因となることがシミュレーションによって示された.傾斜異方性媒体はこれを緩和でき,2 Tbit/in2以上の実現可能性があること,また,ドット間交換結合の導入でさらに高密度化できることが提案された.さらに、これら媒体の要素技術の実験結果についても報告された.2 Tb/in2超のBPMに適用する媒体技術として注目される.
- 「2.5 Td/in2自己組織化マスクによるビットパターン媒体」
○喜々津哲,鎌田芳幸,木原尚子,森田成二,木村香里,和泉晴彦* (東芝,*東芝ストレージデバイス)
ジプロツクコポリマーの自己組織化構造を人為的ガイドで制御したものを加工マスクとして試作した2.5 Td/in2相当の密度のビットパターン媒体に,位相差サーボパターンを用いて,現行ヘッドのトラッキング動作に成功したことが報告された.2.5 Td/in2超のBPMに適用するサーボ技術として注目される.
- 「L10型FeNi薄膜の創製とその特性評価」
○水口将輝,小嶋隆幸,関谷茂樹,高梨弘毅(東北大)
交互積層法による非平衡状態の実現により,超徐冷環境でのみ形成されるとされるL10型FeNi規則合金の薄膜を作製した.Au-Cu-Ni合金下地層上に成膜したFeNi薄膜は、下地層や成膜条件の最適化を図ることにより7.0×106 erg/ccの垂直磁気異方性が得られた.希少元素を含まない、安価な高記録密度磁気記録媒体材料として注目される。
- 「高スピン分極ホイスラー合金の材料開発とCPPGMRへの応用」
○古林孝夫*, 中谷友也* **, 長谷直基** *, H. S. Goripati** *,
高橋有紀子*, 宝野和博* **(*物材機構, **筑波大)点接触アンドレーフ反射によるスピン分極率測定を用いて,バルクの4元Co基ホイスラー合金について合金探索が行われた.その結果高いスピン分極率が得られたいくつかの合金の薄膜を用いてCPP-GMR素子を作成し,高いMR特性が得られることを示された.高記録密度磁気記録用再生センサとして期待されるCPP-GMR素子の特性向上の可能性が議論された.
- 「高分解能・高SNを両立する再生ヘッドの将来技術」
○高岸雅幸,岩崎仁志 (東芝)
高記録密度ハードディスクでMR素子を使用する場合に必要になる素子特性を,計算機シミュレーションにて見積もった結果が紹介された.これらの見積もりを通して,記録密度を大きくするときの課題と高記録密度用MR素子の仕様が概説された.2 Tb/in2超の高記録密度磁気記録用再生センサに必要な特性が,簡潔に分かり易く提示されている.
- 「熱アシスト磁気記録のための媒体材料およびプロセス開発」
○根本広明,中村公夫,武隈育子,佐山淳一,
廣常朱美,棚橋究(日立)熱アシスト磁気記録方式に適用する媒体として,L10構造を有するFePt合金のグラニュラー薄膜化が検討された.L10規則化を促進するための加熱プロセスとしてFePt合金薄膜の形成後に加熱する方法(ポストアニール法)とFePt合金薄膜の形成直前に基板を加熱する方法(プレヒート法)が比較され,ポストアニール法ではSiO2とFePt合金の分離が不十分であることが示された.加熱プロセスによって微細構造が大きく影響を受けることが議論された.
- 「マイクロ波アシスト磁化反転とその反転メカニズム」
○岡本聡,菊池伸明,北上修(東北大)
マイクロ波アシストによる磁化反転について,まずLLG方程式の厳密解に基づく解析モデルについて説明されたのち,LLGシミュレーションを用いた高効率化手法が紹介された.また,Co/Pt多層膜による磁化反転実験結果についても示された.垂直磁気異方性の大きな磁性ドットを独立にマイクロ波アシスト磁化反転させた最初の実験として注目される.
- 「放送用ストレージの概要と将来展望」
○宮下英一,岸田雅彦,林直人(NHK)
放送局では,従来VTRをべ-スとした記録システムから,HDDやSSDを用いたファイルベースの記録システムへと移行し,運用性が改善されている.放送用の記録機器の現状と映像用途への適用における課題,将来展望について紹介された.ファイルベースの記録システムとすることにより,ワンセグ放送やハイビジョン放送などの様々な放送形態の編集に柔軟に対応できる点,映像データのストレージが利用できる点で,HDDやSSDの大容量化,高速転送化への期待・要求が高まっていることが示された.
- 「高速ストレージサブシステムの省電力化に向けた新規データ配置制御技術」
○藤本和久,赤池洋俊*,三浦健司,村岡裕明(東北大,*日立)
「高速ストレージサブシステムの省電力化に向けた新規データ配置制御技術」ハードディスクを大量に搭載した従来のストレージシステムにおいては難しかった高速性の維持と省電力化の両立を実現するための,階層ストレージシステムにおける新しいデータ配置制御技術が紹介された.データセンタで処理・保存されるデータ量が爆発的に急増しており,ストレージシステムの消費電力やこれを冷却する電力の低減が急務となっている.