第176回研究会報告

第37回ナノバイオ磁気工学専門研究会

「磁性ナノ粒子のバイオ応用技術の最新展開」

日時:2011年1月21日(金) 13:00-16:40
場所:中央大学駿河台記念館
共催:IEEE Mag. Soc. Japan Chapter
参加者:26名

 磁性ナノ粒子のバイオ応用技術は、幅広い基礎研究分野の裾野から臨床レベルの開発研究まで益々活発に行われている。本研究会では、磁性ナノ粒子を用いた診断・治療技術と再生医療をキーワードに、最新の研究成果が紹介された。体内の特定位置に局在させた磁性ナノ粒子を検出できれば、診断技術として有用であり、生体外での磁性ナノ粒子の検出も、診断技術として即効性の高いテーマである。また、磁性ナノ粒子の応用ならではの、治療技術や再生医療への応用もステップアップしていることが説明された。年度末の日程ながら、磁性ナノ粒子のバイオ応用技術に関連する最新の研究動向や今後の展望を討論する機会として、熱心な聴講者が集い、実り多い研究会となった。

講演内容:

  1. 「フェライト・ビーズの検出技術とセンチネルリンパ節診断への応用」
    〇阿部正紀、上田智章、畠山 士、半田宏(東工大)

     磁性ナノ粒子のバイオ医療応用のイントロダクションに引き続き、癌腫瘍から最初に転移するセンチネルリンパ節(SLN)の転移有無を生体検査で判定する診断方法が紹介された。SLNに捕捉されたフェライトビーズを高感度で体外から検出できる新しいセンサとして、励磁音響効果やホール効果を用いたセンサ、さらに生体検査に用いる高効率な蛍光磁性ビーズを開発したことが報告された。

  2. 「磁性ナノ粒子の自己組織化を利用したバイオセンシングプロトコル」
    〇サンドゥー アダルシュ1,2、SY. Park1、 森本義謙2、半田 宏2 (1豊橋技科大、2東工大)

     磁性ナノ粒子の自己組織化とホール効果を利用した診断技術が紹介された。磁性粒子を自己組織化で磁力吸着させ、標的バイオ物質のサイズを拡大することで、感度かつ秒単位で検出できることが報告され、ポイント・オブ・ケア診断技術として期待されることが説明された。流路内での磁性粒子の電界誘導に成功したことや、磁界で固定化した磁性粒子の検出、磁界回転式バイオセンサなど最新の研究成果も紹介された。

  3. 「磁性ナノ粒子を用いた癌治療技術」
    〇井藤 彰(九大)

     癌特異的な抗体を結合したマグネトリポソームを発熱体として用いたマウスの実験において、腫瘍を特異的に加温でき、抗腫瘍効果が得られたことが紹介された。引き続き、ラットの実験では磁性ナノ粒子を注入していない、即ち直接加温されていない腫瘍までもが退縮した実験結果が報告された。この免疫賦活効果は、新しい温熱治療、即ち温熱免疫療法の有効性を示すものであり、そのメカニズムなどが説明された。

  4. 「磁性ナノ粒子を用いた細胞配列のパターニング」
    〇李 鍾國1、高成広起2、井藤 彰3、本田裕之2 (1阪大、2名大、3九大)

     生体医用工学的手法を用いた再生組織の構築や標的組織への移植等に注目が集まっている。磁性ナノ粒子を用いた細胞配列のパターニング技術による機能的心筋シート構築の可能性が紹介された。ペースメーカ細胞の培養実験では、磁性ナノ粒子と磁石を用いてパターニングを行った細胞シートにおいて自発興奮が観測され、ペースメーカ機能を有する細胞塊を組織工学的に再構築すると考えられることが説明された。

(文責: 竹村泰司 (横国大))