第134回研究会/第22回磁性人工構造膜の物性と機能専門研究会共催研究会報告
「スピンエレクトロニクスの現状と将来」
日 時:2004年1月29日(木)9:30 – 19:00,30日(金)9:00 – 17:45
場 所:東京農工大学 11号館 多目的会議室
参加者:143名
1月29日
- 「スピンエレクトロニクス」
前川禎通(東北大)
前川氏は、ナノスケール磁性体における伝導電子の内部自由度であるスピンおよび電荷がお互いに作用しあって導かれるユニークな伝導現象について理論的な観点から概説した。磁性体のトンネル接合におけるスピン蓄積、3端子デバイスにおけるクーロンブロッケイド効果、超伝導とスピン電流,スピン電流による磁化反転、スピン電流と電荷の流れの分離等について議論し、スピン電流を用いることによる新たなスピンエレクトロニクス発展への期待を述べた。
- 「フルホイスラー合金を用いた強磁性体トンネル接合のTMR」
猪俣浩一郎(東北大)
猪俣氏は、理論的にハーフメタルであることが予言されているL21構造をもつフルホイスラー合金についてレビューするとともに、ホイスラー合金薄膜を用いたTMR素子を作製し、結晶構造の規則性、表面性が、薄膜で大きなスピン分極率を得るのに重要であることを指摘した。Co2CrxFe1-xAlホイスラー合金を用いたトンネル接合により室温でTMR値約20%が得られたことを報告した。
- 「高キュリー温度ペロブスカイト酸化物の物性と薄膜成長」
浅野秀文(名大)
浅野氏は、ハーフメタルとして知られている二重ペロブスカイト強磁性体Sr2FeMoO6、Sr2CrReO6のバルク基礎特性について紹介するとともに、エピタキシャル膜の作製とその特性について述べ、薄膜の結晶構造の規則性および格子整合と磁性との関連を議論した。格子不整合率が0.1%以下の基板を用いることによりハーフメタルから予測される飽和磁化に近い値と高いキュリー温度が得られること、および絶縁性バリア層としてNdCuO4が有望であることを報告した。
- 「閃亜鉛鉱型スピンエレクトロニクス材料の薄膜成長と評価」
秋永広幸(産総研)
高いスピン偏極度を持った電子源として期待される、閃亜鉛鉱型CrAsと遷移金属をドープした立方晶GaNのエピタキシャル薄膜成長について、その何が難しいのかを各種の結晶成長実験データを用いて説明した。
- 「ハーフメタル材料バンド計算」
赤井久純(阪大)
ハーフメタルについて基本的な概念と,強磁性発現の機構についてレビューを行ったあと,ダブルペロブスカイト型遷移金属酸化物のハーフメタルと反強磁性ハーフメタルについてトピックスを紹介した.
- 「MnドープIII-V化合物半導体の物性」
松倉文礼(東北大)
磁性半導体(Ga,Mn)As、(In,Mn)As、(Ga,Mn)Nの性質について概観した。正孔誘起強磁性を記述する平均場モデルと実験結果との対応を述べ、 (In,Mn)As電界効果型トランジスタを用いた電界アシスト磁化反転の実証などの最近の実験結果を紹介した。
- 「スピン依存伝導の基礎」
佐久間昭正(東北大)
佐久間氏は、スピンが関わる伝導現象の理論の骨格を概説し、磁性細線あるいは磁性多層膜を舞台とするスピンエレクトロニクスの諸現象をスピン流という立場からどのように把握できるかを簡単な模型で俯瞰した。
- 「スピン注入磁化反転の理論と実験」
鈴木義茂(産総研)
鈴木氏は、現在急速に研究が進みその機構が解明されつつあるスピン注入磁化反転の理論と実験について解説した。Slonczewskiの理論に沿って、注入スピンの歳差運動、3層膜におけるスピントルクと磁化反転臨界電流および反転時間を求めた。後半では、GMR素子での磁化反転の実験結果、臨界電流低減の試み、MRAMへの応用に関する展望等について述べた。
- 「ノンローカル手法を用いたスピン蓄積の測定」
大谷義近(理研)
大谷氏は、強磁性体から非磁性体へのスピン注入によって非磁性体中に生じるスピン流の空間分布について行った計算や実験の結果を報告した。またスピン流によって生じる異常なホール効果についての実験結果を紹介して、スピン蓄積に関して議論した。
- 「スピントランスファー効果による単一磁壁の電流駆動」
小野輝男(阪大基礎工)
小野氏は、微細加工により作成したパーマロイ細線中に磁壁を導入し、パルス電流を流すことにより運動した磁壁をMFMにより観察した実験を紹介した。電流密度および電流パルスの幅と磁壁の位置から、電流駆動の閾電流密度、磁壁の移動速度を求めた結果を報告した。
1月30日
- 「Spintronics in Data Storage」
佐橋政司(東北大)
佐橋氏は、150Gbpsi以上の高密度記録を実現するためのキー技術として、NOL(Nano Oxide Layer),電流狭窄のためのナノレベル構造を有するCCP型スピンバルブ膜によるMR比増大の期待について述べ、材料のさらに深い理解、ナノレベルのスピン伝導の物理の重要性を強調した。
- 「CPP-GMRヘッドの課題と展望」
清水豊(富士通研)
清水氏は、高密度記録のためトラック幅の減少に伴い、従来のCIP型に比べCPP型スピンバルブヘッドの方が再生感度が有利になる可能性について解説し、NOL(Nano Oxide Layer)を用いた電流狭窄(CCP)効果によるΔRAの向上、およびCCP-CPPスピンバルブ型試作ヘッドで150Gbpsiの可能性を報告した。
- 「100Gbpsi級TuMRヘッドの拡張性と信頼性」
加々美健朗(TDK)
加々美氏は、試作したTuMR(Tunneling Magneto Resistive)ヘッドで得られた100Gbpsi級の電磁変換特性を示し、絶縁耐圧試験により、トンネルバリアー層中のピンホール密度の定量化を実現して、無欠陥に近いヘッドの高歩留まりの量産が可能であることを報告した。
- 「MRAMの特徴とMRAM技術」
波田博光(NEC)
波田氏は、高速不揮発性メモリとして期待の大きいMRAMの製造プロセスを紹介し、ショートに起因する読み出し不良、個々のメモリーセルのアステロイド曲線(反転磁界)のバラツキによる書き込み不良、熱揺らぎの問題、書き込み電流の問題等の技術課題について解説し、議論した。
- 「MRAM’s future prospects and its challenges」
G. Jeong(Samsung)
Jeong氏は、MRAMの将来性は、ランダムアクセス性、高速性、不揮発性、信頼性などの機能面だけでなく、製造工程、技術的課題、スケーリング(微細化)などの量産性やコストが重要であることを強調した。また、Split Digit Line構造によりセルサイズの微細化が可能であることを紹介した。
- 「Magnetic RAM – A platform non-volatile technology customized for high performance and/or high density applications」
A.R. Sitaram(Infineon)
Sitaram氏は、各セルにトランジスタを持つ高速なFET cellタイプ、および高密度化が可能なクロスポイントcellタイプを紹介した。MRAMが汎用メモリとして競争力をもつためには、高速/高密度、高信頼性、セルサイズの低減が不可欠であると述べた。
- 「シリコン量子コンピューター」
伊藤公平(慶大理工)
伊藤氏は、シリコン中の核スピンを利用した量子コンピューターの開発について報告した。核スピン制御に必要な半導体同位体超格子の作製に成功していること、さらに量子ビットの選択的アクセスに必要な強磁性体の開発と核スピン制御の基礎的な実験について進行状況を述べた。
- 「半導体核スピンの電気的コヒーレント制御」
町田友樹(PRESTO-JST)
町田氏は、量子ホール系端状態を利用して半導体核スピンの電気的コヒーレント制御を実現したことを報告した。今回実現された半導体素子における量子状態の制御方法は、量子ビットなどの量子情報技術やスピントロニクス技術の新たな応用可能性を拓くものであると述べた。
- 「スピンMOSFETとその応用」
菅原聡(東大院工)
管原氏は、集積回路への適用という観点でこれまで報告されているスピントランジスタの問題点を議論し、新たにMOSFET型スピントランジスタ(スピンMOSFET)を提案した。数値解析の結果から、スピンMOSFETは集積回路に適した特性を持ち、不揮発性メモリと再構成可能な論理回路へ応用可能であると述べた。
最後に、講師の先生のご都合により2週間前に2日目プログラムの順番を変更したことを深くお詫びいたします。