第104回研究会

磁性材料をとりまく最近の磁界解析技術の動向と展望

 去る3月17日に,日本応用磁気学会第104研究会「磁性材料をとりまく最近の磁界解析技術の動向と展望」と題する研究会が開催された。この研究会では,電磁界シミュレーションの基礎から,磁性材料の磁界解析,応用解析まで幅広く取りあげてみました。その内容の詳細は以下のとおりです。

日 時:1998年3月17日 10:00~17:30
場 所:商工会館
参加者:58名(大学関係20人,企業関係38人)

講演題目:

電磁界解析を考える

  1. 電磁界解析の現状と問題点
    榎園正人(大分大)
  2. 構成方程式と電磁界解析
    棚橋隆彦(慶応大)
  3. 磁性材料の電磁界解析の難しさと見通し
    西口礒春(神奈川工大)
  4. 電磁界解析の実用化技術
    坪井 始(福山大)

磁性材料を如何に解くか

  1. 軟質磁性材料の磁界解析—2次元磁気特性を考慮した磁界解析並びに鉄損解析
    祖田直也,榎園正人(大分大)

永久磁石材料の磁界解析

  1. 永久磁石材料の着磁過程の解析
    榎園正人(大分大)
  2. フェライト材料の磁界解析
  3. フェライト磁心の高周波磁界解析
    早乙女英夫(千葉大)

磁気記録材料の磁界解析

  1. 磁気記録媒体のシミュレーション
    中村慶久(東北大)

応用解析例

  1. 磁化特性の近似法に関する応用上の問題点
    藤原耕二(岡山大)
  2. 非線形性を考慮したスイッチング電源の特性シミュレーション
    斉藤兆古(法政大)
  3. 磁束量子動力学法による超伝導電磁現象の解析
    出町和之(東京大)
  4. まとめ

 最初にオーガナイザより,本研究会の位置づけが述べられ,電磁界解析における現状と問題点が指摘された。研究会の午前中は電磁界解析の基礎的な問題を理論並びに技術的の両面から取り上げられた。最初,棚橋氏(慶応大)から構成方程式と電磁界解析と題し,支配方程式における基本法則について,マクスウェルの方程式全般からの立場より,ファラディーの法則から現象の本質を理解するために積分形の原理式に戻る必要性が説かれた。次いで,西口氏(神奈川工大)から材料のモデル化の難しさからの磁化曲線の非線形性,数値解析上の難しさからの透磁率の差異,理論上の難しさからの局所的な電磁力の評価の3つの観点から報告された。坪井氏(福山大)からは数値解析上の技術的な問題として,最近注目されている辺要素に着目した2次元,3次元電磁界解析の実用化のための技術について報告があった。具体例として変形ベクトルポテンシャル法が紹介された。
 午後は具体的に磁性材料を如何に解くかという視点から軟磁性材料,永久磁石材料,フェライト材料,磁気記録材料について,祖田氏(大分大),榎園氏(大分大),早乙女氏(千葉大),中村氏(東北大)から具体的な例題を基に報告がなされた。軟質磁性材料では2次元磁気特性の考慮の必要性とその特性をどのように磁界解析のために加工し,定式化していかなければならないかが論じられた。永久磁石材料では限られた測定条件の中から必要な特性をどのように構成するかが重要で,そのため現象を巨視的に捕らえる改良型VSMW法が紹介された。フェライト材料では見かけ上の磁気特性と実際の磁気現象との隔たりから,フェライトの損失評価およびその物理パラメータを明らかにし,早乙女氏の提唱する動的磁気損失パラメータを有限要素法に適用した結果について詳細な報告がなされた。磁気記録材料においては中村氏の豊富な取り組みの中から,磁気記録シミュレータの概要とその基礎となっている磁気記録メディアの磁化モデルについて,スカラ近似,ベクトル磁化,セルフコンシステント磁化の各方法が事例を基に紹介された。
 最後のセッションでは応用解析例の報告として,まず,藤原氏(岡山大)から,磁化特性の近似法に関する応用上の問題点として,B-H曲線の近似法,周波数の影響,プライザッハモデルによるヒステリシスループの表現法等について,具体的な検討課題のあることが報告された。次の例として斉藤氏(法政大)から非線形性を考慮したスイッチング電源の特性シミュレーションと題して,磁性体中の直流偏磁を抑制する原理の検証とその抑制効果を吟味するため,Chua型モデルによる磁気ヒステリシスを考慮した過渡解析結果が報告された。最後に,出町氏(東大)から磁束量子動力学法による超伝導電磁現象の解析が報告された。この手法はGinzburg-Landau理論を組み込んだ分子動力学法に基づいており,低温超伝導体から高温超伝導体へと拡張されている。これにより,臨界電流密度のピンニングセンタ依存性が評価できる。最後に,本研究会のまとめとして,榎園氏より解析で何が重要か,それを構成方程式の中にどのように取り込むべきか議論され,これらの手法及びモデル化が従来の汎用プログラムパッケージとの間でどのようにリンクしていくかが課題として紹介された。 本研究会では,議論が白熱し,予定時間が過ぎるのを忘れるほどであった。この分野の関心が高いことがうかがわる。

(大分大 榎園正人)