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第184回研究会報告
第20回強磁場応用専門研究会報告
「強磁場を利用した物質分離技術」

日時:2012年5月25日(金) 13:00~17:00
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:24名

磁気分離は,物質をその磁性を利用して磁石により吸引することで実現する物質分離手法である.誰でも体験したことのある身近な現象に基づく非常に単純なプロセスだが,超伝導磁石と磁気フィルターの利用,担磁などの前処理によって,磁性を持たない物質でも微粒子からイオンに至るまで,ある程度の選択性で分離することができるようになる.被分離物質はフィルター上に捕集されるが,磁場を取り除くと容易に回収することができ,フィルターを再生利用できることから,2次廃棄物が出ず,環境にやさしい技術と言え,産業や医療,環境改善などの分野で利用され始めている.研究会では,1970年代から始まった超伝導磁気分離の歴史から,理論的な背景,医療分野における利用や,各種産業プロセスにおける水質浄化法としての利用のほか,放射性土壌の浄化に関するトピックスの紹介もあり,たいへん熱い議論が交わされた.当日は非会員4名を含む24名の方にご参加頂いた.講演の概要は以下の通り.

講演内容:

  1. 「磁気分離技術の近代史と世界の現状」
    渡辺恒雄 (首都大)
    まず,磁気分離の作用原理,特徴的要素,実用化の留意点などの基本事項が解説され,その後,磁気シーディング法,高勾配磁気分離,磁場発生源のバリエーションなどの要素技術が紹介された.歴史的な観点では,1970年頃までの鉱物資源の選別回収を中心とした第1期,90年頃までの強磁性微小粒子の除去を軸とする資源回収への適用が進んだ第2期を経て,現在は,要素技術の進展により弱磁性かつ小粒径粒子や水中電離物質の分離が可能となったことで,環境浄化等への適用が進む第3期を迎えている.世界的には日本が大幅にリードする現状で,近年,アジア地域での研究が活発化し始めているという.
  2. 「磁気力による流体中の物質の運動のモデル」
    岡田秀彦 (物材機構)
    超伝導磁石による強い磁気力を利用した磁気分離に関するシミュレーションについて紹介された.強い磁場中に強磁性フィラメントを配置するとそのごく近傍に高勾配磁場環境が形成される.流体中に分散する弱磁性微粒子がそこを流れるとき,フィラメント周囲で粒子がどのように振舞うか,またそれによって分離性能がどう変化するかを評価するため,拡散の影響も考慮した運動モデルが構築された.粒子の磁性や粒径,流体の流速はもちろん,フィラメントの配列方法によっても分離性能が変化するが,構築されたシミュレーションモデルにより,これらの現象がよく説明できるという.
  3. 「磁気力制御技術とその産業応用」
    西嶋茂宏 (阪大)
    従来の高勾配磁気分離に磁気アルキメデス分離を組み合わせることで実現する新しい応用について紹介があった.高勾配磁気分離では,磁気フィルター上に磁気力を利用して被分離物質を集めるが,磁気アルキメデス分離では,磁気力と重力を重畳することで,物質ごとの分離が可能であり,より磁化率の小さな物質の分離に有効である.ガラス精密研磨用の酸化セリウムの回収へ適用したケースでは,共存する鉄系凝集剤を高勾配磁気分離で分離し,その後,磁気アルキメデス分離によりシリカとアルミナを回収することで,磁気的性質で中間に位置する酸化セリウムの回収が可能になるという.この他,蛍光体の分離,ガラスの色別分離や放射性土壌の除染についてのトピックスが紹介された.
  4. 「磁化活性汚泥法〜活性汚泥の磁気分離と種々の水処理プロセスへの活用」
    酒井保藏 (宇都宮大)
    磁気分離を用いた新しい水処理法である磁化活性汚泥法について紹介された.一般的な生物学的水処理法である活性汚泥法では,微生物により水を浄化した後,浄化された水から微生物を分離する操作が必要となる他,増殖した微生物である余剰汚泥を引き抜く必要があるなど,管理がデリケートでコストもかかる.これに対し,磁化活性汚泥法では,活性汚泥がマグネタイトをよく吸着する性質を利用して磁性を付与し,磁気分離により浄化水からの微生物分離を行なう.従来法に比べ,高濃度の微生物回収も可能なため,微生物量を増やすことができ,有機物の処理能力が向上することで,余剰汚泥の生成量をほぼゼロに抑える事ができる.このため管理が容易でコストも低減できる.パイロットプラントでの実証試験も進んでおり,今後の実用化が期待される.
  5. 「磁性吸着剤と高勾配磁気分離による浄水処理と資源回収」
    三浦大介 (首都大)
    高勾配磁気分離による水処理に関し,有価資源回収の例として下水中からのリンの回収,有害物質除去の例として,難分解性溶存有機物であるフミン酸と,アンモニア態窒素,水銀の分離について,それぞれ効果的な磁性吸着剤と磁気分離システムの検討を行なった結果が紹介された.磁性吸着剤として,リン回収ではジルコニウムフェライトを,フミン酸,アンモニア態窒素,水銀の分離には,それぞれヤシ殻活性炭由来の,磁性メソポーラスカーボン,ナノマグネタイト,磁性活性炭を用い,100 µm径の磁性細線フィルタを使用,1〜2 T程度の磁場を印加することで良い分離性能が得られたという.
  6. 「環境リスク低減のための抗生物質の磁気分離」
    井原一高1,豊田 淨彦1,梅津一孝2 (1神戸大, 2帯広畜産大)
    畜産業において使用される抗生物質の量はヒトに投与されるよりも多く,畜産廃水・廃棄物を通じて環境中に排出されやすい状況にあり,そのリスクが懸念されている.そこで,畜産廃水からの動物用抗生物質の磁気分離について検討した結果が紹介された.国内使用量の多いテトラサイクリン系およびセファロスポリン系抗生物質を対象とし,電気化学反応による磁気シーディング法を用いて磁気分離性能を評価したところ,いずれの場合も80〜90%の分離が実現し,この方法による分離が有効であることが確認されたという.今後は,排出源である施設に設置できる連続処理型の磁気分離装置開発が課題となるということであった.
(文責: 廣田憲之 (物材機構) )