「磁性流体:発明から半世紀、そして次の半世紀」
日時:2011年 7月27日(水)10:00 - 16:50
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:37名
1960年代、人類が進出した新環境:宇宙において直面した課題を解決するためにNASA(米国航空宇宙局)や東北大で全く新しい材料である磁性流体が発明されてから半世紀が経とうとしている。無機固体である磁性超微粒子を界面活性剤で分散させ、マクロにはあたかも液体全体が強磁性を持っているかのようにふるまう磁性流体はナノサイズの複合材料の先駆けであり、現在ではさまざまな産業用途で活用されている。しかし、この流動する磁石という奇異な物質には、現在でも未解決の問題が数多く残り、また、アイデア次第で新たな用途が生まれる可能性がある。そこで、磁性流体研究連絡会,IEEE Mag. Soc. Japan Chapterと共同で本研究会を開催し、磁性流体に係わる気鋭の先生方にそれぞれの分野の新展開と今後の展望について御講演いただいた。酷暑の中、非会員8名を含む、37名の参加があり、異分野交流による今後のこの分野の拡がりに対する期待が感じられた。以下に講演の概略を紹介する。
講演内容:
- 「 鉄基ナノ粒子の低温化学合成の現状と今後の展望」
○小川智之、高橋研(東北大)
純鉄ナノ粒子を中心にいくつかの低温合成を用いた相制御、粒径・粒径分散制御技術について紹介された。合成された純鉄ナノ粒子の飽和磁化は、鉄原材料や溶媒、界面活性剤に強く依存し、また、粒径・粒径分散も界面活性剤や反応温度・反応時間など合成法に大きく影響を受けることを解説された。
- 「磁性流体の現象解明への超音波利用」
澤田達男(慶大)
磁性流体中を伝播する超音波の伝播速度が印加磁場によってどのような影響を受けるかを実験的に調べた結果が紹介された。磁場強度、磁場方向、磁場増加率、磁場印加時間を変化させた際の振舞の議論がなされた。
- 「磁気機能性流体のマイクロ構造とレオロジー特性」
井門康司(名工大)
磁性流体やMR流体などの磁気機能性流体について、基礎方程式系とその現状について紹介されるとともに、流体内部の微粒子が形成するクラスターなどのマイクロスケールの構造を示し、これがマクロな流体の特性に大きな影響を与えていることを解説された。
- 「最近の磁性流体界面現象に関する研究」
須藤誠一(秋田県立大)
小さなNdFeB磁石に磁性流体を所定の量だけ吸着させた磁石―磁性流体系について、その素子系に外部から交流磁場を印加した場合に発生する界面現象、及びその応用について解説された。
- 「熱輸送現象研究の新展開と今後の展望」
山口博司(同志社大)
磁性流体の熱輸送に関する基礎研究、及びエネルギー変換を主とする応用技術に関し、歴史的な発展を踏まえた現在の研究状況の紹介があり、さらに今後の進展が議論された。特に、磁化が強い温度依存性を示す感温性磁性流体にスポットをあてられ、熱磁気自然対流、熱輸送装置、また今後の進展が期待される磁気冷凍についての解説があった。
- 「磁性流体の加工への応用」
梅原徳次(名大)
磁性流体は混合した研磨液に種々の力を与えることができるため、特徴ある研磨方法が提案されてきたことが報告された。非磁性流体の磁気排出力、非磁性流体同士の磁気分離力及び非磁性体の保持・輸送力を利用した研磨方法が紹介された。
- 「電子機器・機械への利用」
廣田泰丈 (フェローテック)
スピーカやシールなど、産業で実用化されている磁性流体の応用例をベースに、磁性流体がもたらす機能・効果について、問題点や注意点などを織り交ぜながらの紹介があった。
- 「機能性磁気ナノ微粒子のバイオ応用への試み」
一柳優子(横浜国大)
独自の製法により磁気ナノ微粒子を生成し、官能基を修飾して機能化する方法が確立されたことを紹介された。また、機能化した微粒子を細胞内に導入し、生体組織において外部磁場により局在化が起きることを示された。葉酸を修飾し、癌細胞に選択的に取り込まれる微粒子も得られたことを示された。さらに、質量分析イメージングや温熱療法への応用の可能性を紹介された。
(文責: 間宮広明(物材機構))
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