「磁気の歴史と新展開」
日時:2011年5月20日(金)13:00〜17:50
場所:中央大学駿河台記念館
共催:IEEE Mag. Soc. Japan Chapter
参加者:37名
近年の磁気に関する研究開発の進展は、基礎、応用共にめざましいものがあります。こうした中で、理論的に数10年前に提案された現象がナノ加工技術により実証される例、昔の技術が姿を変えてリバイバルする例、また、思わぬ異分野の技術が役に立つ例などは枚挙にいとまがありません。そこで、本研究会では経験豊かな講師の方に、各分野のこれまでの歴史や経験を踏まえつつ、最新技術の新展開について熱く語っていただきました。以下に講演の概要を紹介します。
講演内容:
- 「暮らしを変えるワイヤレス給電技術、携帯から医療機器、電気自動車まで」
松木英敏(東北大)
電磁界や電磁波を用いた非接触エネルギー伝送方式の主なものについて説明し、各方式の特徴や問題点を明らかにすると共に、いかにこれからの暮らしや社会を変える技術となりうるのかについて、携帯機器、医療機器、電気自動車などの事例を交えて紹介された。特に大容量の自動車用の電池が開発された際の充電時間の問題を解決するためにワイヤレス給電を用いる研究はスケールが大きいものであった。
- 「半導体スピントロニクス −強磁性半導体を中心として−」
大野英男(東北大)
III-V族強磁性半導体について、キャリア誘起強磁性、電流誘起磁壁移動における内因性閾値電流と新しいユニバーサリティクラスに属するクリープの観測、キュリー温度や異方性の電界制御による新しい磁化反転法の可能性について紹介された。強磁性半導体の鮮やかな実験結果が金属系のスピントロニクスに重要な指針を与えてきたことが示された。
- 「高密度磁気記録の研究を通して −高密度記録媒体の発展−」
法橋滋郎(早大)
主として60年代から80年にかけて磁気記録に関してどのような研究がなされていたかを、記録機構、記録媒体、垂直記録を中心に述べられた。磁気記録が、物理に基づいた新しい解釈を荒削りであっても実証していくことにより発展してきたことが、数々のエピソードを交えて示された。
- 「永久磁石の発展と日本の役割」
佐川眞人(インターメタリックス)
工業的に成功を収めたNd-Fe-B磁石の発明のきっかけや、温度特性の改善への取り組みについて紹介された。また、近年の製造プロセスやDy低減化の研究成果に基づき、希土類資源の心配を考慮しても、Nd-Fe-B磁石が電気自動車向け磁石の本命であることを述べられ、安易に希土類の無い磁石や磁石を使わないモーター、発電機の必要性を論じる風潮に警笛を鳴らされた。
- 「微細磁気構造の制御とデバイス応用」
○松山公秀1、能崎幸雄2、田中輝光1(1九大、2慶大)
加工形成された磁性体への情報ストレージ技術の推移と、高密度化に向けた技術動向について述べられた。また、磁区、磁壁、スピン波束等の微細磁気構造による情報記録、論理演算、情報伝送技術に関し、様々なデバイスの開発経緯について概説され、ポテンシャルの増大に伴う動作エネルギーの増加を補うために、マイクロ波などの援用、スピン注入などの新しい磁化反転技術が必要になっていることが述べられた。
(文責: 鈴木哲広(ルネサス))
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