「ナノ構造物質の電磁気学」
日時:2010年12月17日(金) 13:00〜16:35
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:51名
近年のナノ構造物質を用いたメタマテリアルやスピン流に関する研究の進展により、物質の透磁率、更には物質の電磁気学を見つめ直そうという動きが起きている。一方で従来から、日本磁気学会では高透磁率材料の研究が議論されてきた。本研究会は、"伝統的な透磁率"と"透磁率の新しい一面"を総合的に議論し、ナノ構造物質の電磁気学について新しい研究の萌芽を促す場として開催された。当日は光物性分野から2名、磁気分野から3名の講師の方をお招きした結果、多数の参加者を集め、活発な議論が起こった。また学生10名、非会員6名の参加があり、新しい分野の萌芽に対する期待感が感じられた。以下に講演の概略を紹介する。
講演内容:
- 「スピントロニクスにおける電磁気学:再考が必要か?」
多々良 源(首都大)
まず"スピン流"についての現状が総説され、特に磁化ダイナミクスによるスピン流生成
(スピンポンピング効果)とスピン軌道相互作用によるスピン流の電流への変換機構についての理論的側面が議論された。これらの現象に関しては、スピン流解釈には限界があることが指摘され、一方でモノポールの存在を示唆する事実が報告され新たな解釈の可能性も提示された。
- 「サブ波長人工構造による光領域の磁気応答」
石原 照也(東北大)
通常、物質の磁気応答はGHz帯域で消失する。しかし、光の波長よりも十分に小さい、金属の人工構造体をうまくデザインすると、磁気応答を示すことが最近わかってきた。講演では、メタマテリアルと呼ばれるそのような人工構造体についての総説があり、更に有効透磁率の概念とそれに関連した光学応答、負の屈折率などの新奇現象が紹介された。
- 「巨視的マクスウェル方程式の単一感受率理論:キラル対称効果および磁気感受率の定義」
張 紀久夫(豊田理研)
巨視的マクスウェル方程式の従来形が含む「微視的理論との整合性」に関する問題点を回避するための、新しい第一原理的導出が紹介された。その結果、線形応答に必要な感受率テンソルは一つだけであり、それが電気・磁気分極、およびそれらの干渉(キラル効果)をすべて記述することが報告された。
- 「ナノグラニュラー軟磁性膜の磁気特性と構造」
○大沼 繁弘1,2、中村 慎太郎2、大沼 正人3(1電磁研、2東北大、3物材機構)
GHz帯域まで優れた高周波軟磁気特性を示す磁性金属―セラミックスからなるナノグラニュラー磁性膜の磁気特性、構造そして組成との相関が概説された。そして、そのような膜に関する最近の研究成果(垂直軟磁性膜や低温物性等)が紹介された。
- 「面内および垂直磁化ナノピラーのスピン注入による高速磁化反転」
○冨田 博之1、野崎 隆行1、鈴木 義茂1、福島 章雄2、久保田 均2、薬師寺 啓2、湯浅 新治2、長瀬 俊彦3、北川 英二3、吉川 将寿3、大坊 忠臣3、長嶺 真3、池川 純夫3、下村 尚治3、與田 博明3(1阪大、2産総研、3東芝)
大容量MRAM実現のために必要とされる、スピン注入磁化反転の高速反転領域(ナノ秒からサブナノ秒)について、面内磁化MTJ素子における単パルス実時間測定、および垂直磁化GMR素子における反転確率についての研究の結果が報告された。
(文責: 冨田 知志(奈良先端大))
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