「高性能磁気センサ応用の新展開」
日時:2009年8月7日(金) 13:00〜17:25
場所:化学会館
参加者:29名
あらゆる情報やエネルギーの検出を目的とするセンサデバイスは、安全・安心で便利な社会を支えるキーデバイスの一つとして高度情報化社会を支えている。その中で、電磁界を検出する磁気センサは、非接触で様々な物質の状態や物理パラメータの検知が可能なデバイスとして、古くから応用が盛んである。本研究会では、近年の磁気センサデバイスの高性能化による新たな応用をトピックスとして、その研究の最先端及び今後の展開について活発な議論が行われた。以下に各講演の概要を示す。
講演内容:
- 「MIセンサを用いた自律航行ナビゲーションシステムの開発」
正木竜二(愛知製鋼)
GPS衛星の信号を受信しにくい場所では、現在地点を検知できないという問題がある。この問題を解決するため、MIセンサと加速度センサを用い、歩行者の移動方向や移動距離を逐次検出し、その位置を特定する技術について報告された。
- 「磁性リボンを用いた多変量ワイヤレスセンサ」
石井 修 (山形大)
高磁歪Fe系アモルファス磁性リボンに交流磁界を印加して機械的に共振させ、その挙動をピックアップコイルで検出することで、温度や液体粘度などをワイヤレスで検知することが可能である。また、PdNi合金被覆磁性リボンを用い、高濃度範囲の水素を高感度検出可能なことが示された。
- 「GMRセンサの非破壊検査応用」
山田外史 (金沢大)
巨大磁気抵抗効果(GMR)素子の小型、高感度、高周波駆動が可能という特徴を利用し、非破壊検査用の高性能なプローブを試作した。その応用例として、プリント基板等の電子製品の不良検査や、医療用磁性微粒子検出等のバイオ分野への適用が紹介された。
- 「省エネ技術のための磁気ブリッジ型センサ」
○忠津 孝1、笹田一郎2 (1エルポート、2九大)
太陽光発電や電気自動車等、近年直流電力の需要が増大しており、電力制御を効率よく行うための、高精度な直流電流計測が求められている。従来のホール素子を用いた直流電流センサには、ヒステリシスの問題があったが、磁性流体を磁気コアに用いることで解決できることが報告された。さらに磁気ブリッジ方式を用いることで、高感度でヒステリシスの無い電流センサを実現した。
- 「磁気センサを応用した新しい電気磁気化学計測方法」
塚田啓二 (岡山大)
電解質溶液と電極の間での電気化学反応を調べるボルタンメトリーの方法に磁気的計測を組み合わせた、新しい手法が報告された。これにより、電解質溶液中のイオン輸送や電極界面付近での充電電流など、局所的な電気化学反応の画像化が可能となり、従来シミュレーションで挙動を予測していたものを直接観察することができるようになった。
- 「核四極共鳴(NQR)による爆発物・不正薬物の検知」
糸崎秀夫 (阪大)
核四極共鳴(NQR)は、その原子を含む分子固有の共鳴周波数を有することから、分子の同定が可能である。質量数14の窒素原子核のNQR共鳴周波数は、物質への浸透性や回り込みの良いMHzラジオ波帯にあり、爆発物や不正薬物の検知に有効なことが示された。応用として、手持ち型の検査機や靴底検査など、空港でのセキュリテイ検査が紹介された。
- 「超伝導磁気センサを用いた医療計測応用」
神島明彦 (日立)
生体内部の電気信号は、例えば心電図や脳波などで測定されるが、それに伴う微弱な磁気信号を医療診断に応用するため、SQUIDを用いた生体磁気計測装置が近年多く開発されており、その現状が報告された。特に、心磁計、磁気マーカーを用いた磁気免疫計測装置、最近のトピックスである超低磁場NMR計測が詳しく紹介された。
(文責:及川 亨 (TDK)、菊池弘昭 (岩手大))
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