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「スピン流駆動デバイスの最前線」
日時:2006年1月30日(水) 9:30〜17:40
場所:化学会館6階大会議室
参加者:70名
講演内容:
- 「GaMnAs系MTJにおけるスピン依存伝導特性」
齋藤秀和(産総研)
強磁性半導体GaMnAsを用いたMTJの伝導特性に関する報告である。まず、最適成長温度が250℃でGaMnAsとほぼ等しいZnSeをバリアとした単結晶(Ga,Mn)As/ZnSe/(Ga,Mn)As系MTJで100%の高い磁気抵抗比(at 2K)を実現したことが示された。次いで磁性半導体の高MR比の起源と考えられるTAMR(Tunneling Anisotropy Magneto-Resistance)効果を調べ、この系ではその寄与が5%程度と小さくMRはほぼTMR効果に起因すること、TAMR効果が結晶磁気異方性に起源を持つことなどが紹介された。更にFe/ZnSe/GaMnAs系MTJで、MR比約40%(at 2K)を得、スピン注入には好ましい伝導特性を実現したことが報告された。
- 「(Ga,Mn)As MTJにおけるスピン注入磁化反転」
千葉大地(東北大)
強磁性半導体(Ga,Mn)Asを用いたスピン注入磁化反転と磁壁移動に関した報告である。まず(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)AsなるMTJにスピン注入すると105A/cm2台の低電流密度で磁化反転すること(at 30K)、これがSlonczewskiの予測した理論よりもひと桁以上小さい値であることが示された。次いで垂直磁化を有する(Ga,Mn)Asの細線パターンにパルス電流を印加することで磁壁が移動し、磁壁速度は最大22m/s(at 107K、電流密度1.2×106A/cm2)になること、これがスピントランスファモデルで説明できることが報告された。
- 「スピントランジスタ −スピンと電荷の融合が生み出す新機能デバイス−」
菅原聡(東大)
代表的なスピントランジスタの特性・性能を議論し、ソース/ドレインを強磁性体、特にハーフメタルとしたスピンMOSFETが有望であることが示された。またFe1-xSix系強磁性体をソース/ドレインとしたスピンMOSFETを試作しトランジスタ動作を確認したこと、今後スピントランジスタの検討予定であることが報告された。更に、高性能トランジスタが期待できるGe系の磁性半導体Ge-Feの適用可能性に着手し、Ge-0.9at.%Feで強磁性になることが紹介された。
- 「スピン偏極電流による磁化不安定性のシミュレーション解析」
仲谷栄伸(電通大)
スピン偏極電流による磁区構造の不安定性のシミュレーションについての報告である。NiFeの磁性細線を想定し、LLG方程式に基づくマイクロマグネティックシミュレーションでスピン電流注入による磁化不安定、磁壁形成を解析した結果、強い電流によって磁化構造が不安定になり螺旋状磁化構造の現れることが示された。
- 「スピン流を用いた磁化状態操作」
大谷義近(東大、理研)
電荷の流れとは独立に取り出したスピン流による磁化操作の報告である。まずパーマロイ/Cuオーミック面内接合からなる面内構造のスピンバルブ素子に対して非局所手法を適用し、スピン流の取り出しとその定量測定が可能であることが紹介された。次いでこの手法を用いたスピン蓄積、スピン吸収の測定と定量解析から、スピン抵抗、スピン拡散長の得られることが示された。更に、電荷のないスピン流の注入でナノスケール微小磁性体の磁化が反転できることが報告された。
- 「スピン電流による磁壁移動と磁性細線デバイス」
小野輝男(京大)
磁性細線中の単一磁壁を電流で駆動した研究の報告である。磁性細線デバイス実現のための課題である閾値電流Jcの低減、高速磁壁移動、磁壁熱安定性、シリアル動作の実証などに関してNiFe細線を用いた実験結果が紹介された。閾値電流Jcが形状磁気異方性に依存し、細線断面を正方形にすると3×107A/cm2にまで低減できること、電流印加による細線の温度上昇が磁壁移動可能な電流の範囲を決めること、磁壁は細線中に形成した楔で安定化し、これが熱揺らぎ耐性を持つこと、ラチェット構造にすると一方向に不可逆な移動が起こることなどが報告された。
- 「MgOバリアを用いたMTJにおけるスピン注入磁化反転」
久保田均(産総研)
巨大なMRを示すMgOバリアを用いたMTJ素子のスピン注入磁化反転の研究報告である。まずMgOにMg下地を挿入したバリアを作製することでスピン注入磁化反転に必要な低抵抗(数Ωμm2)、高MR(100%)のMTJが得られることが紹介された。次いで、パルス電流印加によるスピン注入磁化反転実験で、発熱の影響を分離した臨界電流Jcが1.6×107A/cm2になること、Jcはフリー層薄膜化で低減可能だが同時に熱揺らぎ耐性も低下することなどが報告された。更に、Slonczewskiが提案したJulliere modelに基づくスピン注入効率計算で臨界電流が精度良く解析できることが示された。
- 「スピン注入磁化反転素子のマイクロ波特性」
鈴木義茂(阪大)
スピン注入磁化反転素子の高周波特性に関した報告である。高周波特性の測定手法として、スペクトラムアナライザを用いた非線形応答、ネットワークアナライザを用いた線形応答測定が紹介され、GMR素子のパルス電流の印加による高速磁化反転、ノイズとマイクロ波の発振の解析によるスピン注入特有の磁化反転緩和、マイクロ波の反射率測定によるギガヘルツ領域でのスピン注入磁気共鳴現象などの研究結果が報告された。また、スピントルクダイオード効果が紹介され、新しい磁気デバイスの可能性について言及した。
- 「4Mb-MRAMのインテグレーション技術」
永原聖万(NEC)
メガビット級MRAMの技術開発とアプリケーションの提案、実証の報告である。動作速度、容量、製法の特徴からMRAMは混載メモリに適用するのが有望であることが述べられた。次いでMRAM開発の課題である素子ばらつきや書き込み電流の低減を実現するためのMTJ加工、磁性体の保護膜、ヨーク配線などの技術が紹介され、これらの統合により4Mbクラス素子の動作実証が報告された。最後に、MRAMを用いた実アプリケーションとしてドライブレコーダが提案され、そのデモ動作が動画で紹介された。
- 「実用化段階に入ったTMRヘッド技術とその次世代技術」
加々美健朗(TDK)
100Gb/in2を越える高密度磁気記録用TMRヘッドの開発技術に関する報告である。記録密度100Gb/in2級を実現したTMRヘッドの実用化技術として、特に低抵抗バリア層開発およびバリア層信頼性評価について説明された。次いでAlOxバリアTMRヘッドと垂直磁気記録方式との組み合わせによる239Gb/in2の実証が報告された。最後に結晶性MgOバリアTMRヘッドを試作し、AlOxバリアと比較してMR比向上分の出力の向上が見られ、将来の高密度化に有望であることが述べられた。
本研究会では、スピン流を利用した新しいデバイスの創出に向けて、基礎的な伝導現象や磁化反転現象から新しいデバイスの可能性までが講演され、議論が展開された。各講演とも研究の背景から最新の話題までわかりやすくまとめられた興味深い内容であった。70名の参加者を得ることができ、議論も活発になされて有意義な研究会であった。多忙の中、快く講演していただいた講師の皆様、ならびに活発にご討論いただいた多くの参加者に紙面を借りて感謝したい。
(NEC 大嶋則和)
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