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第120回応用磁気学会研究会報告
「希土類ボンド磁石」
 
日 時:2001年5月24日(木)13:30〜17:00
場 所:商工会館
参加者:98名

プログラム:
  1. ボンド磁石、現在と将来 原田英樹(日本ボンド磁石工業協会)
  2. ボンド磁石の磁化過程 福永博俊(長崎大)
  3. Recent Developments in NdFeB Powder Barry H. Rabin, Bao Min Ma(Magnequench, Inc.)
  4. 超急冷粉末を用いたNdFeB磁石とその応用 古谷 嵩司(ダイドー電子)
  5. Sm-Fe-N系磁石用粉末の作製とボンド磁石への応用 石川 尚(住友金属鉱山)
 
 ボンド磁石は複合材料の一種で、磁石粉末と有機バインダーを混合して作られる。薄い形状や複雑な形状の磁石が製造でき、しかも寸法精度が高いなど焼結磁石にはない優れた特長を有するため、需要は年々拡大している。本研究会では、より優れた磁気特性が得られる希土類ボンド磁石をテーマに、材料の概要とマイクロマグネティックスによる磁化過程シミュレーションの話題の後、代表的な希土類ボンド磁石材料について現状と将来展望を各界の講師にご紹介いただいた。
 原田氏は、各種のボンド磁石材料が普及した原因として、成型形状の任意性が大きいこと、製造に必要な設備が少なく投資効率が良いことなどを挙げ、これらのメリットが磁気特性の低さというデメリットを補っているとの見解を示した。次に、代表的な材料の磁気特性を示し、希土類ボンド磁石用の磁粉はMagnequench社が実質的に独占供給しているが、同社の磁粉を上手に使いこなして高性能のボンド磁石製品に仕上げる努力が日本メーカによってなされているとした。日本ボンド磁石工業協会の2000年の統計によれば日本国内のボンド磁石の生産量は依然として世界一であるが、日本メーカの海外生産が進んでいる。ボンド磁石の主な用途はリジッドフェライトではプリンタ用マグロール、希土類ではモータ用リング磁石である。最後に、材料の完成度を高めるキーとなる技術はナノクリスタル材料を製造するための超急冷技術であるとし、今後の研究の発展を期待して講演を締めくくった。
 福永氏は、永久磁石の実用上重要な特性である高温下での不可逆減磁が磁石の磁化過程と深く係わっているとの立場から、NdFeB系ボンド磁石材料の磁化過程について実試料の測定とマイクロマグネティックス理論に基づく計算機シミュレーションの結果を交えながら解説した。まず、超急冷法で作製したNdFeB系の粉末の磁化過程が結晶粒径によって変化することを示した。次に、ナノメートルスケールの軟磁性・硬磁性結晶粒の磁化が粒子間の交換相互作用で結合されたナノコンポジット磁石の例としてNd2Fe14B/α-Fe系を取り上げた。この系の磁石の保磁力の大きさと着磁性との関係や、大きなリコイル透磁率(スプリングバック)について、シミュレーションで見られた磁化反転の挙動に基づいて説明を試みた。最後に、ナノコンポジット磁石の保磁力が小さいにもかかわらず高温暴露実験での初期減磁が小さい原因は高温での減磁曲線の角形性劣化が小さいためであると指摘した。
 Rabin氏は、アトマイズ法で作製されたNdFeB系球状等方性磁粉について、従来製法であるロール急冷法による等方性磁粉と対比しながらその特長を紹介した。この球状磁粉は平均粒径が約50μmで、シャープな粒度分布を有する。アトマイズ後の磁粉は粒径によって冷却速度が異なり、小径の磁粉はアモルファス状態になっている。これを熱処理によって結晶化して磁石粉末とする。この磁粉は従来の磁粉に比べて熱可塑性樹脂と混合したときの流動性が良いことから、射出成形によって小さな形状、あるいは複雑な形状のボンド磁石を成形するのに適している。この他に、金型の摩耗が少ない、繰り返し成形時の保磁力の低下が少ないなどの利点があることを示した。最後に、今後のボンド磁石用磁粉の研究開発の方向性として、高エネルギー積・高耐熱性材、高Br・易着磁性ナノコンポジット磁石、保磁力レベルの異なる球状等方性磁粉、熱安定性・耐食性を改善した異方性磁粉の4つを挙げた。
 古谷氏は、NdFeB系超急冷粉末を用いた等方性ボンド磁石、および熱間加工磁石についてそれぞれの特長と応用例を幅広く紹介した。等方性ボンド磁石の成形方法には、エポキシ樹脂を使用した圧縮成形、ナイロン等を使用した射出成形・押出成形、ゴムを使用したロール成形がある。等方性ボンド磁石はコンピュータ関係を中心としたOA用小型モータに多く使われている。特に、HDD、CD-ROMのスピンドルモータに使われるリング形状の磁石では同軸度、真円度の要求が高い。同軸度を高める技術として磁石の電着エポキシコーティング膜にヨーク材との接着の機能を兼ねさせる「一体接着法」を紹介した。熱間加工磁石は、超急冷粉末をホットプレスにより材料本来の密度近くまで圧縮成形し、さらに熱間塑性加工することより異方性を付与する。後方押出加工により配向度の高いラジアル異方性のリング磁石が得られ、低出力のサーボモータなどに使われている。最後に、今後大きな市場が期待される自動車用の用途に対して、高耐熱材の不可逆減磁のデータや他の部材と一体成形した部品の例を紹介した。
 石川氏は、SmFeN系磁石材料の発見の経緯について簡単に触れた後、磁石用粉末の作製方法と異方性ボンド磁石への応用例を紹介した。まず、Caメタルを還元剤とする還元拡散法によりSm-Fe母合金粉末を得、これをNH3とH2の混合ガス中で窒化処理した後に微粉砕してSm2Fe17Nx系の異方性磁石粉末を得る製造工程について写真を交えながら詳しく説明した。また、日亜電子化学が最近開発した微粉砕工程を簡略化できる新しい製造方法についても若干触れた。次に、SmFeN磁石粉末にポリアミドを混合して成形した射出成形磁石、ゴムまたはエラストマーを混合して成形した押出成形磁石の磁気特性について述べた。前者の例として12極着磁したリング形状のボンド磁石を挙げ、SmFeN磁粉が磁場中成形において配向しやすいこと、着磁が容易であることを強調した。最後に、SmFeN磁粉とフェライト磁粉を混合したハイブリッド磁石に言及した後、SmFeN系ボンド磁石の特長は軽量でかつ安価である点であるとした。
 研究会当日は小雨模様であったにもかかわらず会場の定員を超える参加者があり、ボンド磁石材料への関心の高さを物語っていた。机やいすの数が不足し、一部の参加者の方にたいへんご不自由をおかけしたことをこの場を借りてお詫びいたします。    
(住特金 槇田 顕)