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日本応用磁気学会第111回研究会報告(第38回磁性多層膜の新しい機能専門研究会との共催)
「微細加工微小磁性体における新しい物理現象」
日 時:
1999年 7月21日(水) 10:00〜17:00
場 所:
東京都千代田区霞ヶ関3丁目、商工会館6階会議室
参加者:
46名
プログラム:
磁性体の微細加工研究の現状と課題 中谷 功 (金材研)
微細加工微小磁性体における新しい物理現象 ―理論的側面から― 井上 順一郎 (名大)
強磁性体単電子トランジスタ 大塚 洋一 (筑波大)
強磁性量子細線の電気伝導の量子化 小野 輝男、大岡 豊、宮島 英紀 (慶大理工)
Coジグザグ細線における伝導電子の磁壁散乱 谷山 智康 (東工大)、中谷 功 (金材研)、山崎陽太郎 (東工大)
磁性体/半導体複合微細構造における電気伝導 家 泰弘 (東大物性研)
微小構造磁性体の磁性と伝導 大谷 義近、金 承九、深道 和明 (東北大工)
今回の研究会では、スピンスイッチング素子や磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)などの基礎技術として最近とみに関心の高まっている「微細加工微小磁性体」を主題として取り上げ、最近の微細加工技術や理論の展開、実験のトピックスなどを含めて、上記の7つの講演が行われた。今回は、不幸にして、日本学術振興会の同種の研究会とかち合ってしまい、参加者は予想を下回って46名ではあったが、各講演に対しては活発な質疑が行われ、まずまずの雰囲気の研究会であった。
最初の中谷氏の講演は、今回の研究会のイントロダクトリー・トークを兼ねた講演で、磁性体の微細加工の歴史、半導体と磁性体の微細加工の比較、最近の動向などを述べた後、氏自身のこれまでの研究を中心に各種磁性体の微細加工法の特徴と問題点を紹介した。
井上氏(名古屋大)は、始めに磁性体を微小化して行った時の伝導現象に現れる量子効果の理論的な特徴を述べた後、最近話題になっている磁壁による磁気抵抗効果の理論と実験結果、磁壁の存在と弱局在効果、磁壁による負の磁気抵抗効果、ポイント・コンタクトにおけるコンダクタンスの量子化の理論などを紹介した。また、二重障壁微細トンネル接合における磁気抵抗の増大機構や二重障壁トンネル接合で期待される物理現象についても示した。
大塚氏(筑波大)は、Ni/Co/Ni構造を用いた強磁性単電子トランジスタの作製法、この構造におけるクーロン・ブロッケイド現象とトンネル機構、更にこの三端子素子の示す巨大磁気抵抗と磁気クーロン振動現象の機構、この手法のスピン偏極度測定技術への応用などについて詳しく紹介された。
小野氏(慶応大)は、強磁性Ni細線と非磁性Cu細線のコンダクタンスの量子化現象についての実験及びその解析結果を詳しく紹介した。東工大の谷山氏は、金属材料研究所と共同で行ってきたジグザグ形状したCo微細加工細線における磁気抵抗変化と磁区構造の研究を紹介し、磁壁の存在で電気抵抗が減少することを示した。
家氏(東大)は、GaAs/AlGaAs半導体ヘテロ界面2次元電子系に細線アレイなどの適当な強磁性体の微細構造を付加して空間磁場変調を加えた時の磁気抵抗の挙動と、これらの系における電子電子散乱に関する実験とその解析結果、さらにこれらの系のランダム磁場変調下での磁気抵抗の挙動について、その理論を含めて紹介した。
大谷氏(東北大)は、Fe, Co多結晶および単結晶エピタキシャル膜からなる微細加工細線の各種磁気抵抗効果と磁区構造や磁気異方性との関係、その温度依存性などの詳細な測定結果とその解析結果を紹介した。結論として、低温における多結晶磁性体細線の結果は磁壁による弱局在の消失効果が負の磁気抵抗の起源である可能性を支持していること、また単結晶エピタキシャル微細加工細線では電子の表面散乱の抑制が負の磁気抵抗の起源と考えられることなどを示した。
始めの部分で述べたように、今回の研究会の参加者は予想よりも少なく、オーガナイザーとしては反省させられる点が多々あったが、それぞれの講演では詳細な部分の質疑が行われるなど多くの参加者にとって意義ある研究会であったと感じている。なお、当日、オーガナイザーの中谷委員が都合で座長ができなくなったため、急遽名大の井上先生に座長の代役を勤めて頂きました。ここに、深く感謝致します。
(東邦大 片山利一)