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日本応用磁気学会第110回研究会報告
「生体磁気科学の現状と将来展望」
日 時:
1999年 5月26日(水) 13:30〜17:30
場 所:
商工会館
参加者:
62
プログラム:
磁気の医療応用 松木英敏(東北大)
生体磁気計測における最近の進歩 内川義則(東京電機大)
低周波ならびに高周波磁界の生体影響 宮越順二(京都大)
生体磁気科学の現状 上野照剛(東京大)
本研究会は、脳磁図やMRIなど磁気を用いた非侵襲脳機能研究や、最近社会問題となってきている電磁界の生体影響など、生体磁気科学研究の現状について、専門外の人々にも広く理解していただくことを目的に企画された。生体磁気科学は、磁気と生体とのかかわりあいの研究であり、生体から発生する微弱磁界を計測する生体磁気計測、電磁界の生体影響、および生体磁気刺激やMRIなど磁気の医療応用等の幅広い分野から成り立っている。その関連分野は工学、医学、生物学、物理、化学など多くの分野にわたっており、その全体像を知ることはなかなか容易ではない。本研究会では、生体磁気研究の第一人者である4人の講師を招き、各専門分野の現状と将来展望についてわかりやすく解説していただいた。
松木氏(東北大)は、生体磁気科学全般にわたり概略を紹介するとともに、磁気の医療応用として、臨床に広く普及しているMRI技術をはじめ、高周波電磁界や感温磁性物質を用いたガンの温熱療法であるハイパーサーミア、人工心臓技術における経皮的な信号やエネルギーの伝送方法、さらには心臓ペースメーカに及ぼす携帯電話の影響等に関して紹介された。
内川氏(東京電機大)は、生体磁気計測の歴史、SQUID磁束計の原理や構造、さらには最近の高次脳機能研究に関して紹介された。特に、これまでのSQUID磁束計は、磁界の一方向成分のみを計測して発生源の推定を行っていたのを、磁界の3方向成分すべての計測を行い発生源推定を行うベクトル磁束計測の利点を強調し、ベクトル磁束計測の測定例を示された。
宮越氏(京大)は、50/60Hzの商用周波数における電磁界、および携帯電話などの高周波電磁界の生体に対する影響に関して述べた。これまでの内外の研究結果から、商用周波数領域の電磁界の生体影響については、依然として不明な点は多いが、人体に与える影響は非常に小さいものであろうと考えられる。しかし、400mTという極めて高い磁界の曝露では、細胞内のシグナル伝達に何らかの影響があらわれている実験結果が示されており、今後の研究のさらなる必要性を強調された。同様に、高周波(10kHz〜300GHz)電磁界の影響に関しても、日常生活環境での曝露は非常に低いエネルギーレベルであり、発ガンを含む健康障害を引き起こすことは考えられないとする一方、安全であるという科学的根拠もなく、研究の継続が必要であると結論された。
上野氏(東大)は、強磁界の生体影響に関して、強磁界の中で反磁性物質である水が分かれるモーゼ効果やフィブリンやコラーゲンなどの生体物質の磁場配向について述べるとともに、脳神経の磁気刺激に関しては、高頻度磁気刺激による遺伝子発現の研究や神経系疾患や精神疾患などに対する診断や治療臨床応用について述べられた。さらに、新しいMRIの手法として、生体内のインピーダンス分布を求めるインピーダンスMRIや神経がつくる電流をイメージングする電流分布MRIに関して紹介され、今後のMRI技術の新しい発展方向を示された。
磁気と生体との関わりあいは、古くから興味をもたれていた問題であるにもかかわらず、科学的には、不明な点が多く、遅れていた分野であったが、最近の研究で次第に科学的にも明らかになりつつあり着実に進歩してきていると印象付けられた。なかでも社会問題となっている電磁界の生体影響に関しては、相変わらず不明な点は多いもののその影響の有無は徐々に解明されつつあり、誤った知識による社会不安を取り除くためにも、更なる研究の進展と正確な情報の普及が望まれる。
(東大 伊良皆啓治)