第15回磁性多層腰の新しい機能専門研究会

新しいスピン現象-I

日 時:平成7年12月21日(木)13:00-17:00
平成7年12月22日(金)9:00-10:00
会 場:北海道大学学術交流会館
参加者:81名

北海道大学工学研究科情報エレクトロニクス講座との共催に より開催した.今回の主題は新しいスピン現象-Iと題し,第1 日目に材料関連,2日目にスピン計測技術について,それぞれ 最近の成果が報告された.近年,従来の技術磁化の制御に代 わってスピンをマニュピレートする技術への期待が高まってい る.このトリガーになったのは金属人工格子におけるGMRの 発見であったといっても過言ではない.スピンのマニュピレー トはその観察手段の革新を必要とし,高分解館の新しいスピン 観測技術への期待が大きい.本研究会はこのような背景の下, 将釆技術の展望を意図して企画された.講演題目と講演者は以 下のとおりである.

1. 最近の人工格子研究の動向 新庄輝也(京大)
2. 遷移金属超格子構造の磁性 松井正顕(名大)
3. 遷移金属多眉膜の構造と磁性 石田 巌(北大)
4. 磁性多眉膜の中性子回折 遠藤康夫(東北大)
5. Coバu人工格子のスピン波共鳴 本河光博(東北大)
6. グラニュラー構造膜の磁性 藤森啓安(東北大+)
7. サンドイッチ膜とトンネル電流MR効果 宮崎照宣(東北大)
8. 金属/半導体人工格子 猪俣浩一郎(東芝)
9. 人工格子メモリ 榊間 博(松下)
10. a"-Fe16N2薄膜の磁化 高橋 研(東北大)
11. a"-Fe16N2微粒子の磁化 鹿田楽一(北大)
12. 表面第一原子届のスピン計測 鳥飼映子(山梨大)
13. スピンSEM 小池和幸(日立)
14. スピン偏極トンネル顕微鏡 末岡和久(北大)

1.では金属人工格子研究の動向が紹介された機微細加工し たSi基板上のGMR効果(CAP.MR)について報告され, CAP.MRの測定からCPP.MRが予測できることが示された. また.この技術の延長から,ナノワイヤの研究や巨視的トンネ ル効果のMR測定による評価が期待されることが述べられた. 2.では磁性超格子における格子定数や界面ラフネスと磁気 モーメントとの相関が報告された.表面性が非常に良い膜より もある程度ラフネスのある膜の方が飽和磁化が高いという興味 深い結果が示された.3.では真空燕着法でガラス基坂上に作製 したCo/Cr多眉膜の飽和磁化が480emu/gという,とてつも なく大きな値が得られたとの報告がなされた.再現性の問題が あるようであるが,非常に興味深い結果であり詳細な研究を行 うよう期待が寄せられ,議論の中で偏極中性子回折による評価 の有効性が指摘された.4.では偏極中性子回折によるGMR膜 の評価結果が紹介された.MBEによるFeにr人工格子におい てスベチュラー反射に加え強いオフスベキュラー反射が観測さ れ,GMRは界面近傍の磁気的不規則性が関係しているとの指 摘がなされた.偏極中性子回折は磁性のミクロな研究に威力を 発揮するので・今後大いに利用すべきであろう.5.ではCo/Cu 人工格子のスピン波共鳴の測定結果が報告された.交換結合に 伴うみごとな多重共鳴が観測され,これを解折することで交換 結合の大きさを評価できることが示された.今回は強磁性的結 合のみであったが,今後反強磁性結合膜の評価が期待される. 6.および7.はトンネル型GMRに関する報告である.6.は粒 界に存在するAlz03をトンネルする電子に起因したグラニュ ラー型のGMRであり,Co-Al-O グラニュラー合金膜におい て室温で 7・8% のMRが報告された.7.は種届膜のトンネル GMRであり,Fe/A12O3/Feにおける大きなMRに加え,フォ トリソグラフィによる接合の微細化の研究が紹介された.今後 の展開が期待される.8.では半導体層を介した磁性金属眉間の 交換結合の温度変化が報告された.Fe/Siの場合,界面にFeSi 合金層が形成されるとともにa-Si層が残存する.このひSi届 が薄いとき交換結合は室温で反強磁性的低温で強磁性的に変 化することが示され,これは半導体スベーサ特有の現象である ことが指摘された.9.は人工格子のGMR効果を利用した磁気 メモ川こ関するものであり・これに適した膜として飽和磁場が 小さくヒステリシスの角型特性のはれたCo9Fe/Cu/NiFeサン ドイッチ膜が紹介された.10・および11.は巨大磁化を示すと 言われているa"-Fe16N2に関するもので,前者(報告者は庄司 弘樹氏)は薄膜後者は微粒子である.飽和磁化は前者の場合 240 emu/gといわゆる巨大磁化は示さず・後者は300 emu/g を超える巨大磁化が得られる場合があるという.この物質に関 する論争の原因は単相が得られないことにあり・そのためび a"- Fe16N2含有量の精密な同定が必要になり,その評価によって値 が異なる報告がなされていると思われる.微視的観点からの評 価手段が望まれる.12.では表面磁性を研究するための新しい スピン偏極技術として,18℃sを用いたスピン偏極原子線散乱 法が紹介され,さらに将来計画としてスピン偏極オージェ分 光・吸着イオンのNMRなどが検討されている旨の報告がなさ れた.スピンのゆらぎの研究への展開が期待される.13.では 最近のスピンSEM技術の発達と偏極2次電子分光装置を用い た研究結果が報告された.前者では分解能が20nmまで向上 し,さらにスピン回転器の開発によって磁化ベクトルの3次元 成分の分布が測定可能になったこと,後者ではAu/Fe(110)に おけるAu膜中の振動型スピン偏極の観測結果および,Fe (110)上のFe0(111)膜の表面は強磁性であり,しかもFe(110) の磁化と反強磁性的に結合している可能性が報告された.14. では,GaAs探針を光励起し発生したスピン偏極電子を強磁性 体にトンネルさせることで磁性体の磁化状態をnmオーダで 観察しようという・ いわゆるスピン偏極STMの開発状況が報 告された.この開発ではトンネル電子のスピン偏極度の向上と スピン偏極トンネル電流の高感度検出に加え,GaAs探針の加 工が重要課題であるが,着々と前進している印象を受けた.イ ンパクトが大きいだけに技術の完成を期待したい. 北海道での当学会の研究会は久しぶりのことと思うが,北大 の学生諸君の多くの参加を得会場は盛況であった.また,は るばる本州から聴講に来られた方もおりこの分野への関心の高 さが感じられた.本研究会は磁性の極限追求を目指した将来が 大いに期待される分野であるだけに,タイトな時間の中での内 容豊富な研究会は少々消化不良が残り,次回はたっぷり時間を 取って十分議論できることを期待したい.新しいスピン現象- 11は来年開催される予定である.なお,12.の講演はプログラ ムでは早川和延(北大)先生の予定であったが風邪のため出席 できなくなり,急渡鳥飼先生にご講演頂いたことを付して感謝 申し上げたい.

(東芝:猪俣浩一郎)