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日本応用磁気学会応用磁気セミナー報告
「スピン依存伝導現象の基礎と応用」
 
日時: 1999年12月3日(金)10:30〜17:15
場所: 商工会館
参加者: 58名

 最近「スピン依存伝導現象」について、基礎的及び応用の観点から、盛んに研究開発が進められている。磁気応用の分野では、スピンバルブ膜を用いた磁気ヘッドの特性改善、高密度記録を見据えたトンネル磁気抵抗素子(TMR)の開発、また巨大磁気抵抗(GMR)やTMRを用いた固体磁気メモリ(MRAM)の開発などスピン依存伝導現象を基礎から理解し、応用の可能性を探ることが必要不可欠なこととなっている。本セミナーは、この様な背景を鑑み、初学者向けにスピン依存伝導現象を分かりやすく解説することを目的とし、実験と理論の両面から下記の4件の講義を行った。

1. 強磁性体の伝導現象とその解釈 佐藤 英行(都立大)
2. 巨大磁気抵抗効果の理論 井上 順一郎(名大)
3. トンネル型磁気抵抗効果の理論 前川 禎通(東北大)
4. 磁気抵抗効果の実験結果の解析法とTMR効果の最近の研究の進展 宮崎 照宣(東北大)


  佐藤氏は、実験家の立場から、伝導現象の基礎から説き起こし、スピン依存伝導につながる分かりやすい講義を行った。始めに、通常金属の電気抵抗とホール効果が、フェルミ面と緩和時間の異方性から説明されることを例解した。磁性体の場合、電気抵抗、異方性磁気抵抗及び異常ホール効果は、上向き及び下向きスピンバンドとスピン依存散乱の見地から解釈されることを示した。スピン依存伝導は、磁性合金の輸送現象において、20年以上も前に既に観測されていたことを強調し、問題解決の指針に「温故知新」を据えることの必要性を説いた。
 井上氏は、GMR効果の発見と、その後の研究の展開についてのレビューの後、磁性多層膜におけるスピン依存伝導の起源を、Fe-CoやCo-Cuの多層膜を例に取り挙げ、磁性層の電子構造とスピンの向きに依存した界面での電子散乱の両面から直観的に説明し、氏の理論計算を交えながら定量的な解説も加えた。今後発展の期待できるペロブスカイトLa(Sr)MnO系での、超巨大磁気抵抗効果(CMR)の出現機構の解説で締めくくった。
 前川氏は、始めに、氏がIBM研究所で行っていた、Ni/NiO/Co系の強磁性トンネル効果の研究経験を織り交ぜながら、1995年に宮崎氏によって発見されたFe/Al2O3/Feに至るまでの経過をレビューした。この後、TMRの起源についての解説を行い、スピン方向に依存するバンド構造の重要性をCo/NiやCo/Coの例を挙げて強調した。2重トンネル接合系で起こるクーロン・ブロケードによるトンネル電流の抑制効果や、コヒーレント・トンネル効果によるTMRの温度依存性についても解説した。終わりに、強磁性/超伝導/強磁性系で起こるスピン依存トンネル効果について、最近の発展を論じた。
 宮崎氏は、「GMRの解説や論文を初学者が直感的に理解することは容易でない」との思慮のもとに現象論を説き起こし、実験結果を解析する手法を教授した。この手法を用いて、Fe-Co-Ni/Cu多層膜のGMRの測定結果から、界面散乱やバルク散乱のスピン依存性の導出を例解した。この後、氏が精力的に進めているTMR研究の現状にふれ、MRAMやHeadへの応用の道筋を説いた。
 セミナーでは、大学院生を中心に学生14名、企業などから44名が熱心に聴講し、休憩時間にまで及ぶ熱心な質疑があった。セミナー後のアンケートでは、大多数に講義の内容を概ね満足していただいたことが分かったが、より基礎的内容の講義を望む声や、OHPが見づらかったなどの意見も寄せられた。

(名工大 坂本 功)