第34回光スピニクス専門研究会報告
日 時: | 2000年7月26日(水)14:00-17:00 |
場 所: | 東工大(大岡山) 百年記念館 第一会議室 |
参加者: | 18名 |
講演題目:
1)「光情報処理の現状と課題」 | (黒川@農工大) |
2)「磁気光学空間光変調デバイス」 | (J.Chou@Gyeongsang Univ.) |
光情報処理への応用を目指して、空間光変調器(SLM)などの2次元光情報処理デバ
イスが数多く研究されている。現時点でSLMとして利用可能なのは、液晶やマイクロ
ミラーなどがあるが、いずれも高速応答性に欠き、光情報処理のネックとなってい
る。最近、磁気光学効果を用いた高速応答型のSLM開発の試みがなされており、光情
報処理分野への利用も期待されている。そこで今回は、「2次元画像処理と磁気光
学」と題して、この分野に精通した2名の講師に講演いただいた。
黒川氏は2次元光情報処理技術の概要とSLMの原理を総括的に述べ、光並列処理
の現状と問題点、並びに今後の方向と光並列処理デバイスへの要求を述べた。その中
で、光情報処理をアナログ処理、デジタル処理、及び光インターコネクションの3つ
に大別し、現在最も研究されている分野が光インターコネクションの分野であり、ア
ナログ処理はマイナーになってきていることを指摘した。これは、アナログ処理では
光処理デバイスのダイナミックレンジが小さいため演算精度が出ないこと、デジタル
処理では外部との入出力の関係と並列アルゴリズムが融合できていないことに起因し
ていると述べた。一方、光インターコネクションは前者2つに比べて単純な系のため、
受光−処理−発光の構成で光ATMなどへの応用が展開していることを紹介した。
最近では超高速通信への応用例として超高速光パルス列の処理をアレイ導波路型でス
ペクトル分解し、1psec以下の光パルスの演算処理に成功していると報告した。SLM
の最も大きな市場はディスプレイであるが、今後、2次元情報処理デバイスとして発
展するためには、アナログ処理性能(ダイネミックレンジ)の向上と高速化が課題で
あると結んだ。
Cho氏は光並列処理に必須の空間光変調器において、従来の液晶を用いたものに比
べ応答速度が1000倍以上の高速性をもち、コントラストも10000:1以上となる磁気光
学光変調素子を紹介した。紹介されたデバイスは、Litton社が開発したLPEガーネッ
ト薄膜を用いるものが主体であった。ガーネット層はBi置換鉄ガーネットの垂直磁化
膜で、ピクセルごとに空間的に分離されている。書き込みは、セルの駆動線に流れる
電流パルスによって磁化反転核を作り、次にバイアス磁界により磁壁移動させ、セル
全体を反転させた。磁化反転核の生成に有利になる様に導線周辺の媒体中にホウ素イ
オンを注入した。このようなデバイスで2値パターンの変調を行った結果、ドメイン
反転はセル内で100nsec以内で終了し、空間変調器としては2値の明瞭なパターンを
偏光顕微鏡像で示した。またこの他の新規デバイスとして、磁性フォトニック結晶を
利用したSLMの紹介もあった。
今回は、光情報処理システムの概要と現状・課題を黒川氏が述べたことにより、全
体討論でのデバイスへの問題意識が明確になったともに、新しい光処理デバイスは興
味深いものであった。一方、Cho氏の磁気光学SLMは高速動作と高コントラストが
魅力的なデバイスであり、2値だけでなく高性能アナログ処理への期待が大きい。両
講演ともわかりやすく活発な議論が交わされ、今後光磁気を利用した光情報処理デバ
イス・システムの開発と展開に期待が膨らむ研究会であった。
(豊橋技科大・井上光輝、NHK・河村紀一)