第29回 光スピニクス専門研究会報告
日 時: | 平成11年12月 2日(木)13:00 - 17:00 |
場 所: | 東工大南3号館 電気情報系会議室 |
参加者: | 20名 |
講演題目:
1)「単結晶ライクなポーラス構造をもつアルミナ媒体の形成」 | 益田秀樹(東京都立大) |
2)「半導体高密度ハニカム孔配列の陽極化成による作製」 | 森下義隆(農工大) |
3)「新しいAu自己組織化ナノ構造とその上へのCoの微量堆積」 | 喜々津哲(東芝) |
今回は、描画による微細構造の限界を超える手法として注目されている規則的自
己組織化によって、規則性をもつ微小構造形成に関する研究成果をご講演いただき、
討論した。
最初の2題の講演は作製法が電解による陽極酸化によるものであったが、
益田は、アルミの陽極酸化によって極めて高い規則性を有する単結晶ライクなポ
ーラス構造が得られることを紹介した。アルミの陽極酸化によりポーラス構造が得
られることは古くから知られているが、規則配列した構造を得る条件の解明があま
り行われていなかったことを指摘し、特定の浴と電解電圧を選ぶことで規則性の高
い微小構造が得られる条件が存在することを述べた。この構造では一部ドメインが
存在するが、SiCモールドを利用した人為的なドットをアルミに形成することで、
ドメインのない高規則性ポーラス構造が得られることを紹介した。またモールドの
一部に欠陥が存在しても、自己組織化によって規則構造が修復されることを報告し、
高密度磁気記録媒体用テンプレートや2次元フォトニック結晶媒体への展開が期待
できることを述べた。
森下は、n型GaAs基板への規則配列の穴の作製方法と、それぞれの孔の底面に一
様なInAsドットを作製する試みを紹介した。n型GaAs基板に光を照射して基板内に
電子・正孔対を誘起することにより、酸化反応が促進することを示し、外部磁場を
印加することにより反応にかかわる電子・イオン移動の散乱を制御することができ
ることを示した。その結果、直径200nm程度で径分散の少ない一様な穴をGaAs基板上
に作製することができた。さらに、このホール基板上(穴の中)にInAsドットを成
長させた場合、配列の規則性一様性が高い基板では、より一様なドットのエピタキ
シャル成長が可能であることを報告した。
喜々津はAu表面に形成される新しい自己組織化構造による磁性ドット配列の試みを
紹介した。Si基板上のAu/Cu(/Si基板)を熱処理すると表面に数nm周期の窪みが形成
され、この表面に1原子層以下のCoを堆積させた。付着したCoとAuの周期構造との
関係は不明である。磁気特性は室温では熱揺らぎの影響を強く受けている。熱揺ら
ぎの影響をなくすために、隣接した5MLのCo層から交換結合を付与することを試みた
結果、Coドットのスピンが交換結合の向きに強く配向していることを示すカーヒステ
リシスが得られ、また、ドットサイズによる保磁力の変化が接触断面積の線形結合で
モデル化できることを報告した。
全体討論では、自己組織力の偉大さに感心する一方、より小さくより一様なもの
への展開に向けて何が必要か、デバイス応用への展開も検討する必要がある、等の
意見も出た。
現在微細加工技術は、微細描画・露光技術の進展によるところが大きい。今回の
テーマに取り上げた自己組織化による微細構造の作製は微細描画の限界を超えて規
則配列が得られるため、その生成過程と一様化のメカニズムが各方面で検討されて
はじめている。特にフォトニック結晶あるいは磁性フォトニック結晶への展開は次
世代の光機能性材料デバイスの道を切り開くものと期待の膨らむ研究会であった。
(井上光輝@豊橋技科大、河村紀一@NHK技研)