第28回 光スピニクス専門研究会報告
日 時: | 1999年 9月14日(火)14:00 - 17:00 |
場 所: | 「銀座アクトプラザ」 |
参加者: | 19名 |
講演題目:
1)「III-V 族希薄磁性半導体のキャリア誘起磁性」 | 赤井久純(大阪大学) |
2)「磁性規則合金の磁気工学効果の第一原理計算」 | 山口正剛(日本原子力研究所) |
磁性体のバンド計算の現在のレベルを学ぶ目的で、半導体と金属について、それぞ
れ精力的な研究で知られる講師をお招きした。
赤井氏の講演は、(InMn)As, (GaMn)As など希薄磁性半導体の第1原理バンド計算
による磁性の評価である。この物質は、そのキュリー温度がホール濃度とともに増大す
るなど、磁性を電気的に変調する可能性をもち、近年実験的にも注目されてきた。赤井
氏は、不規則な原子配置をもつ希薄な混合物をあつかうのに適したKKR-CPA-LDA 法を採
用しバンド計算を行った結果、温度と Mn 置換量に対して強磁性ないし反強磁性領域を
マップした磁気相図をよく再現する結果を得た。このふるまいは、Mnイオン間の二重
交換相互作用モデルによって直観的に理解できることを提案した。
一方、山口氏の講演は、Fe, Co, Ni と Pt, Pd, Au の組みあわせで作られた L10
型規則合金の磁気光学スペクトルを計算し、共同研究者らの実験と比較したものである。
今日の電子状態計算手法のなかでは比較的計算量の少ない LMTO-ASA 法を用い、得ら
れた電子構造を用いて、線形応答形式によって磁気光学効果を計算する。これらの規則
合金ほとんどに対し、可視光領域のカー・スペクトルは形状、絶対値ともに良好に再現
されることが示された。この方法では、磁気光学効果の起源となるスピン軌道相互作用
を、電子状態を構成する軌道別に入れたり抜いたりした計算が可能である。こうした
計算結果を実測と比較することにより、磁気光学スペクトルがどのような遷移から生じ
ているかを明快に帰属した。
講演後に聴衆も参加した討論の時間は、希薄磁性半導体の二重交換モデルがハバー
ド・ハミルトニアンと同型であることが指摘されるなど、理論・実験両面から活発な
意見交換の機会となった。今回の話題である磁気秩序と磁気光学効果を見るかぎり、第
一原理計算と実験の一致の印象はきわめて強い。一方で、磁気異方性の計算は困難なよ
うで、現在の到達点と残る課題のコントラストを明らかにした研究会であった。
(担当幹事:佐藤勝昭(農工大)、岩崎洋(ソニー))