第17回光スピニクス専門研究会報告
日時: | 平成9年12月9日(火)14:00〜17:00 |
場所: | 東京工業大学 大岡山キャンパス 南3号館2階 |
参加者: | 26名 |
今回は「おもしろい薄膜・結晶性改善技術」と題して以下の四つの講演をお願いした。
1) | 「超音波励起によるフェライトメッキ膜の微細構造の改善」 | (東工大・北本仁孝;阿部正紀) |
2) | 「水素ラジカル援用によるエピタキシャルMnAs薄膜の結晶性改善」 | (農工大・森下義隆) |
3) | 「ナノ多層構造によるCoCrスパッタ膜の結晶性と微細構造改善」 | (東工大・中川茂樹、直江正彦) |
4) | 「照射ビームイオン種の最適化によるNiFe/Cu多層膜の結晶性改善」 | (東工大・宮本泰敬、中川茂樹、直江正彦) |
最初の講演は、水溶液中から熱処理不要で直接結晶質のスピネル・フェライト膜を作製するフェライト・メッキ法における改善技術に関するものであった。北本、阿部
両氏は、フェライト・メッキ溶に強力超音波(600W, 20KHz)を印加することにより、基板表面上における核結成場を増大させ結晶粒を微細化できたことを紹介した。超音
波により、単にマクロスケールの攪拌が促進されるのみならず、キャビテーションバブルの崩壊にともなってミクロスケールで発生する超高温・高圧(数1000℃、>1000気
圧)の場"ホットスポット"や超高速流動(>100m/s)の場"マイクロジェット"の効果によるものと推察される。
次の講演はMnAs のGaAs上への分子線エピタキシーにおける改善技術に関するものであった。森下氏は、GaAs基板の酸化膜除去時に水素ラジカルを照射すると、平坦で残留
酸素・炭素の少ない清浄表面が得られることをmicro-RHEED, SIMS, AFMを用いて見出したことを紹介した。これは、酸化膜除去のメカニズムが水素ラジカルの有無で変化する
ことに起因する。また、酸化膜除去後MnAs薄膜の分子線エピタキシ成長を行うと、成長中に水素ラジカルを照射した場合、ファセットに被われた平坦な薄膜が得られることを
も述べた。そのメカニズムとして、水素と結合した金属原子がサーファクタント効果を示すためと推測されている。
あとの二つの講演はスパッタ法による磁気記録関連デバイス用薄膜の作製に関する改善技術に関するものであった。中川、直江両氏は、CoCr垂直磁気記録層を極薄C層ではさ
んで積層化することによって、各層中の垂直磁気異方性を確保したまま結晶子を微細化できることを紹介した。またCr リッチ組成で常磁性化したCoCr層を用いて多層化するこ
とによりNiFe膜の軟磁気特性や面内記録媒体の磁気特性を改善できることも述べた。
宮本、中川、直江三氏は、GMRを示す Ni-Fe/Cu多層膜の界面へArイオンビームを照射することにより、界面構造を変化できることを紹介した。さらに反跳粒子による膜への衝撃
を防ぐため、スパッタガスとしてKrを用い、適当なエネルギーのKrイオンビームを界面へ照射することにより応力を緩和させて磁気抵抗特性を従来より60%向上させること
ができたことも述べた。
総合討論では、超音波や水素ラジカルが実際にどのような働きをしているのか、GMRを増大させている真の原因は何か、今回紹介された技術が他の材料にも転用可能か、な
どについて活発な議論が行われ、さらにほかの萌芽的"改善技術"に関するコメントもあり、有意義な研究会であった。
阿部正紀(東工大)、田中雅明(東大)