第14回光スピニクス専門研究会報告

「レーザーアブレーション成膜」

日時: 平成9年6月19日(木)13:30〜17:00
場所: 東京工業大学 南III号館2階会議室
参加者: 14名



 今回は「レーザーアブレーション成膜」と題して以下の3つの講演をお願いした.

1)絶縁体、半導体のレーザーアブレーションの基礎過程 伊藤憲昭 (大阪工大)
2)レーザーアブレーション法によるYBCO超伝導薄膜及びBi:RIG磁性薄膜の作製 森本章治、竹沢勝人、松田和子、南川俊治*、米沢保人*、清水立生 (金沢大工 学部、*石川県工業試験場)
3)RE(1-x)SrxMnO3(RE:希土類イオン)薄膜の作製と磁気伝導 葛西昌弘(JRCAT、現 日立研)



 伊藤氏は、非金属表面にレーザー光をあてたときの表面近傍における 原子に対する電子励起の様子を示し、結晶構造中の欠陥周辺における ポテンシャルの移動と原子の放出過程を説明した。また、放出される粒 子の持つエネルギーと様相の分布はパルス照射の時間軸と密接に関連 しており、パルスレーザー成膜では、数十nsecの光パルスを用いている ことから熱の寄与が大きく成膜した場合にクラスタでの飛来が多いであろうと述 べた。
 森本氏は、実験的な立場からパルスレーザー成膜の実体に関して報告 した。高雰囲気中で成膜に適した反応場が生成され、特に飽和ガス圧の 高いPbやBiにおいては高ガス圧にしたときに成膜に寄与する捕獲クラス タ数が顕著に変化することを述べた。また、殆どの材料でポストアニール による結晶化が施されているのが現状で、成膜時に基板温度を上げるこ とによって膜と基板の親和性を高める効果は確認しているが、In-situ結 晶化については研究途上である。最近の成果として可視短波長で大きな 磁気光学効果の期待できる材料であるBi全置換IG磁性薄膜を作製し、結 晶光学的にみてほぼガーネット相ができていることを報告した。
 葛西氏は、GMRを越える超巨大磁気抵抗CMR(Colossal Magneto-resist ance)と呼ばれる数桁に及ぶ比抵抗変化を示す材料として注目されている Mn系酸化物をレーザーアブレーションで作製し、CMRの起源について報告 した。Ln-Mn-Sr-OをはじめとするRE(1-x)SrxMnO3薄膜(RE:Ln,Sm,Nd,Pr など)についてREの組成比xを変えて磁気抵抗効果の変化を調べた。超巨 大磁気抵抗効果の起源は磁場で誘起される1次の絶縁体?金属転移で あると報告した。
今回は酸化物薄膜の作製で注目レーザーアブレーションの基礎反応過程か ら成膜までを理解することを目的として研究会を開催したが、非金属表面に パルスレーザー光を照射した場合、光誘起の電子励起過程と表面の温度上 昇による熱的反応過程が起こり、現段階での成膜技術においては主に後者 の担うところが大きいと理解した。今後、このレーザーアブレーションには光 反応過程まで積極的に利用できる成膜環境として発展することを期待したい。 (NHK放送技研 河村紀一)