第23 回 磁性多層膜の新しい機能専門研究会
第11 回 光スピニクス専門研究会

「光による新しい薄膜磁性評価技術」

日時: 1997 年 2 月 24 日 (月)
場所: 「銀座リビングプラザ」
参加者: 18名

「光による新しい薄膜磁性評価技術」をテーマに、以下の講演が行われた。

1) 磁性薄膜のスピン分解光電子分光と磁気線二色性 柿崎 明人 (東大物性研)
2) 円偏光光電子回折による磁性薄膜表面スピン状態の研究                大門 寛  (阪大基礎工)
3) 近接場磁気光学顕微鏡の開発 佐藤 勝昭 (東京農工大工)

 柿崎は、スピン分解光電子分光と磁気線二色性の二つの測定手法につき説明 し、いずれの方法でも、数原子層程度の非常に薄い膜の磁気的状態についての 情報が得られることを実例をもって示した。スピン分解光電子分光法は、原子 のスピンを直接見ることを可能とするので、表面近くの磁気モーメントの大き さや向きを検出する有効な実験手段である。一方、磁気線二色性法は、放射光 以外の通常光源による比較的簡便な測定系にて、極薄膜の磁化状態について精 度よいデータが得られる長所がある。
大門は、円偏光光電子回折により表面スピン状態を調べることが出来ること を示した。彼らは、円偏光ビームを Si (100) 面に垂直に入射し、前方散乱ピ ークが円偏光の電場の回転方向と同じ方向に回転するという新しいタイプの円 二色性を観測した。励起された光電子は放出角度を選ぶとスピンが揃うが、隣 接原子のスピンとの相対角度に依存した散乱を受けるため、隣接原子のスピン に関する情報を得ることができる。現段階では、磁性薄膜表面のスピン状態を 直接見られる訳ではないが、MnO (001) 面のスピン状態などの観測例が報告さ れた。
 佐藤は、走査型近接場光学顕微鏡で偏光成分を検出する装置の概要を示し、 磁性媒体上の磁気光学効果を 100 nm 程度の分解能で観測できることを示した。 偏光成分はファイバの形状に大きく依存しているが、プローブ用ファイバに入 射する光に偏光変調法を用いることにより偏光成分の検出感度を 10 倍以上向 上させた。ガーネット膜上の記録ビット、PtCoCr 膜の表面の観測結果が示され、 磁気力顕微鏡との差違、コントラスト改善の必要性などが述べられた。  少人数であったが、最先端の話題について活発な質疑応答がなされ、有意義 な会であった。
(オーガナイザ:日立中研 鈴木良夫、帝京平成大 末澤慶孝、秋田大 石尾俊二、NHK技研 河村 紀一)