137.01

【タイトル】Recessed Pinned Layer構造をもつHDD再生ヘッド

【分野】磁気記録

【出典】
S. Miura, K. Makino, T. Machita, N. Degawa, T. Uesugi, and T. Kagami, The 27th Magnetic Recording Conference (TMRC 2016), F-6, August 16, 2016. https://tmrc16.stanford.edu

【概要】
TDKは磁気記録国際会議TMRC 2016において、新しい再生ヘッド構造を発表した。これは反強磁性体ピンニング層と、磁化固定層の一部がAir Bearing Surface(ABS)から引っ込んだ構造であり、再生分解能の向上に寄与する。

【本文】
HDD再生ヘッドはトンネル磁気抵抗(TMR)スピンバルブの上下が、NiFe軟磁性シールドに挟まれた構造であり、シールド間の距離(リードギャップ)、すなわちスピンバブルの総膜厚が、ダウントラック方向の再生分解能を決定する。実用的なスピンバルブでは、IrMnなど反強磁性層の膜厚がおおよそ5 nm以上であることが必要であるため、スピンバルブの総膜厚は25-30 nm程度となり、1 Tbit/in2を大きく超える高密度HDDの再生ヘッドの要求分解能を満たすことは難しい。
 TDKはTMRC 2016において、反強磁性層と磁化固定層の一部が、ABSから引っ込んで(”recessed”)おり、ABSから見るとシールドに埋没したもつ再生ヘッドを発表した。これは、Recessed Pinned Layer(RPL)構造を呼ばれる(模式図は講演のダイジェストを参照)。RPL構造により、リードギャップが低減される。彼らは、PRL構造を用いてリードギャップ23 nmの再生ヘッドを作製し、通常の再生ヘッドにくらべ、分解能が10%程度改善されることを実証した。同時に、信号雑音比とビットエラー率も改善され、より高い記録密度に対応できることが期待される。また、再生ヘッドの湿度環境における腐食は、主にABS付近の反強磁性層において起きるが、RPL構造では、ABS上に反強磁性層は存在しないため、必然的に高い腐食耐性をもつ。これによりカーボン保護層の膜厚を低減し、ヘッド浮上高さを低減でき、結果的に記録密度の向上に寄与する。
 以上のことから、RPL構造をもつスピンバルブ再生ヘッドは、今後のHDDの記録密度の上昇に対応できると期待される。

(物質・材料研究機構 中谷友也)

磁気記録

前の記事

137.02
磁気応用

次の記事

138.01