137.02
【分野】磁気記録
【タイトル】
イプシロン型酸化鉄のナノ磁性粉を用いた磁気テープ開発に成功
【出典】
“Multimetal-Substituted Epsilon-Iron Oxide ϵ-Ga0.31Ti0.05Co0.05Fe1.59O3 for Next-Generation Magnetic Recording Tape in the Big-Data Era”,
Shin-ichi Ohkoshi, Asuka Namai, Marie Yoshikiyo, Kenta Imoto, Kazunori Tamazaki,
Koji Matsuno, Osamu Inoue, Tsutomu Ide, Kenji Masada, Masahiro Goto, Takashi Goto,
Takayuki Yoshida, and Tatsuro Miyazaki, Angew. Chem. Int. Ed. 55, 1 (2016).
【概要】
東京大学の大越らは複数の金属イオンを添加したイプシロン型酸化鉄(ε-Fe2O3)の磁性ナノ粒子を新たに開発し、磁気テープを作製した。作製した磁気テープの磁気記録の再生信号はコバルト鉄合金(MP1)よりも非常にシャープで、なおかつ高いSN比を有していることが分かった。この材料は新たな大容量磁気テープへの応用が期待される。
【本文】
磁気テープは、データ容量・コスト・長期保存性等の点で優れることから、ビッグデータの時代を迎えて需要が増加している。磁性材料としてはこれまではコバルト鉄合金が、また最近ではバリウムフェライトが使われるようになってきている。一方、イプシロン型酸化鉄(ε-Fe2O3)は室温で20 kOeと大きな保磁力を持っていることから、粒子サイズを小さくしても超常磁性になりにくいという特長があるが、磁気記録において良好なパフォーマンスを得るには保磁力を3 kOeに調整する必要があった。本研究ではε-Fe2O3をベースに、鉄イオンの一部をガリウム・チタン・コバルトの各イオンで置換することで保磁力を調整することにより、保磁力2.9 kOeを有する材料、ε-Ga0.31Ti0.05Co0.05Fe1.59O3を作製することに成功した。この保磁力の変化は、一部の鉄イオンをコバルトイオンに置換することによって生じたa軸方向の磁気異方性の減少を利用したものである。一方、この材料の磁化については、その大きさが母物質ε-Fe2O3よりも44%向上することも明らかになった。これはフェリ磁性の振る舞いを持つ鉄イオンの一部がコバルトイオンで置換されたことで、正味の磁化が大きくなったためである。
得られた材料を使って塗布設備にて磁気テープを量産し、その再生信号特性を調べた。その結果、コバルト鉄合金(MP1)よりも非常に鋭いピークが現れた。またバックグラウンドノイズも低く、高いSN比が得られた。以上の優れた特性から、本材料は次世代の大容量磁気記録材料としての応用が期待される。
(東大物性研 谷内敏之)