第209回研究会報告
反強磁性が拓くマグネティクスの新展開
- 日 時:
- 2016年10月21日(金)13:00~16:40
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 43名
反強磁性スピン構造は、磁気的秩序の多彩な起源といった基礎学問としての重要性に加え、外部磁場による擾乱に強いこと、高い磁気共鳴周波数を示すことなど、デバイス応用の観点からも強磁性体には無い魅力を有している。近年、反強磁性を利用したスピントロニクスや磁気熱量効果に関する技術が急速な進展を見せており、さらに反強磁性やフェリ磁性の磁気秩序に起因した新しい物理現象も報告され、「反強磁性スピン構造を作り、理解し、操る」ことの重要性が高まっている。この研究会では反強磁性材料の開発、熱量効果、磁気相転移、反強磁性スピントロニクスに関連する最新の技術動向が報告され、活発な質疑応答がなされた。
- 「反強磁性材料の開発/欧州における研究状況」
○廣畑貴文(ヨーク大)
反強磁性材料として最も広範に用いられるIr-Mn合金の代替材料開発は、希少元素を削減するという元素戦略の見地からも重要である。そのような視点から、欧州における近年の反強磁性材料の開発状況について概説され、ホイスラー合金を用いた反強磁性薄膜の作製の現状が紹介された。特に、成膜条件の最適化と評価手法の開発について詳細な解説がなされた。
- 「反強磁性体の相転移と熱量効果」
○藤田麻哉(産総研)
固体電子相の1次相転移における潜熱を利用した熱量効果の観点から、反強磁性秩序・相互作用の影響、およびフラストレーションの効果について議論がなされた。圧力を利用した熱量効果の実例として、反強磁性Mn3GaNが紹介された。無秩序局所磁化の重要性が示され、この系での圧力熱量効果は反強磁性特有のフラストレーションにより増強されていることが説明された。さらに、強相関系への展開としてVO2のバルク体における電圧誘起の熱量効果が紹介された。
- 「FeRh規則合金における磁気相転移とマグネティクス応用の現状と展開」
○谷山智康(東工大)
異なる単結晶基板上におけるFeRh規則合金エピタキシャル薄膜の作製方法や、それを用いたFe/FeRhにおける交換バイアス効果の評価などの実験が説明された。さらに、FeRh細線とCo電極の接合を作製し、スピン偏極電子の注入が反強磁性-強磁性相転移を誘起していることを示す実験結果が示された。これは、スピントルク効果とスピン蓄積効果の複合効果として議論された。
- 「反強磁性体スピントロニクスとデバイスへの展望」
○森山貴広(京大)
反強磁性体へのスピン注入効果を調べるための実験として、MgO基板/Pt/NiO/FeNi/SiO2薄膜における電流による有効ダンピングの変化について説明がなされ、スピン流が反強磁性NiOの磁化と相互作用し、スピン波により伝搬していることが議論された。また、FeRh細線を用いた反強磁性磁気メモリの動作実証の実験について紹介され、異方性磁気抵抗効果を用いた情報読み出しと、電流と外部磁場による情報書き込みが可能であることが示された。
- 「フェリ磁性体におけるスピンゼーベック効果」
○大沼悠一(原子力機構)
反強磁性体やフェリ磁性体における、スピンと熱の変換現象であるスピンゼーベック効果の理論的取り扱いについて紹介された。特に、フェリ磁性体の磁化構造がスピンゼーベック効果に与える影響について、磁化とスピンゼーベック効果の温度依存性の実験結果を交えつつ議論された。
文責:関 剛斎(東北大),介川裕章(物材機構),川口建二(産総研)