第208回研究会/第56回化合物新磁性材料専門研究会報告
スピントロニクスにおける次世代材料開発
- 日 時:
- 2016年6月9日(木)9:20~16:45
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 41名
今回の研究会では、スピントロニクスにおける次世代新材料開発の最先端を9名の講師の先生方に4つのサブテーマ「垂直磁化材料」、「スピン軌道トルク、スピンホール、トポロジカル」、「電圧書き込み、電気磁気効果、スキルミオン」並びに「ホイスラー、ハーフメタル」で紹介していただいた。次世代材料として、近い将来製品化が期待される材料から、トポロジカル超伝導、スキルミオンなど、材料としての利用にはまだ時間を要するが、室温で実現すればノーベル賞級の材料まで、幅広い内容に関する紹介が行われた。1日開催の研究会で参加者の出入りも多く、すべての講演で活発な議論が展開された。
- 「垂直磁化スピントロニクスデバイスの開発」
○薬師寺 啓(産総研)
垂直磁化トンネル接合の開発経緯、性能向上のための技術開発、デバイス応用について紹介された。中でも、STT-MRAMのメモリ素子としての技術ポイントや高集積化のための開発展望について詳しく紹介され、薄膜材料作製に関するノウハウなど掘り下げた議論が行われた。
- 「Mn系垂直磁化薄膜-スピントロニクスデバイスへの応用と課題」
○水上成美、鈴木和也(東北大)
Mn系垂直磁化膜のこれまでの研究とスピントニクスデバイス応用への課題について解説された後、最近講演者のグループで見出したMnGaの室温成長技術を用いた極薄膜成長とそれを用いた磁気抵抗素子の最新の研究結果について報告された。
- 「スピン軌道トルク磁化反転とその集積回路応用」
○深見俊輔(東北大)
高性能低消費電力集積回路の実現を目指して研究を行っている3端子スピントロニクス素子の概要を紹介後、3端子素子への情報の書き込み方法として期待されるスピン軌道トルク磁化反転に関して最近講演者のグループで得られた成果が報告された。
- 「トポロジカルな電子状態:物質、物性、機能」
○笹川崇男(東工大)
ポストグラフェンやビヨンドグラフェンの観点から、トポロジカル電子状態をもつ物質やそれらが示す物性・現象、そしてどのような電子機能への応用が期待されているかについて、講演者の研究結果を交えながら幅広く紹介された。
- 「電圧磁気異方性制御の現状と課題」
○野崎隆行、塩田陽一、薬師寺 啓、久保田 均、福島章雄、湯浅新治、鈴木義茂(産総研)
強磁性金属超薄膜における電圧磁気異方性制御に関する最近の展開について紹介された。電圧トルクRAM実現に向けたスケーリング実証、および電圧誘起ダイナミック磁化反転のエラーレート低減を目的とした材料開発のターゲットについて議論がなされた。
- 「電気磁気効果によるCo/Cr2O3界面の垂直交換磁気異方性反転とそのダイナミクス」
○白土 優(阪大)
電気磁気効果を示すCr2O3薄膜を用いた交換バイアスの電界反転について報告された。交換バイアスの極性は,Cr2O3層に印加する磁場と電場の積によって可逆的に反転させることが可能であり、また、電場としてパルス電圧を用いることで数百ナノ秒での反転が可能であること、磁区構造観察の結果、交換バイアスの極性が各磁区ごとに決定されている可能性があることが報告された。
- 「一軸応力を用いた磁気スキルミオン相の制御」
○中島多朗(理研)
カイラル磁性体MnSi はジャロシンスキー・守谷相互作用に起因したらせん磁気秩序を示す物質であり、近年盛んに研究されている渦状のスピン構造「磁気スキルミオン」が現れる物質として知られている。講演者らは、MnSiにおいて、一軸応力中の交流帯磁率測定及び中性子小角散乱実験により、磁気スキルミオンの生成・消滅が制御できることを見出したと紹介された。
- 「ホイスラー合金を用いたスピントルク発振」
○関 剛斎(東北大)
スピントルクを利用すると電流によって磁化反転や自励発振現象を誘起することが可能となる。講演者のグループは、スピントルクによる自励発振を高感度磁場センサへ応用することを目指し、高スピン分極を有するホイスラー合金と磁気ボルテックスのダイナミクスを利用したスピントルク発振素子を作製した。その結果、発振出力とQ値を同時に向上できることが明らかとなったと紹介された。
文責:大石一城(CROSS)