日本磁気学会 第205回研究会/第56回スピンエレクトロニクス専門研究会報告
「将来の磁気デバイスを担う新しいナノ磁気構造とスピン操作の可能性
~カイラル磁性とスピンオービトロニクスが拓く新現象~」
- 日 時:
- 2015年12月14日(金)10:20~16:40
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 41名
本研究会はスピンエレクトロニクス専門研究会と共催し、近年注目を集めているカイラル磁性およびスピンオービトロニクスに関した最新研究をテーマとして取り上げた。この研究分野において第一線でご活躍されている講師から下記7件の最新の研究をご紹介いただき、基礎から将来の磁気デバイス応用の可能性まで幅広い内容を取り扱う研究会となった。初学者にも基礎から理解を深めることができるよう午前中は2件の基調講演が行われ、小野先生からはスピンオービトロニクス全般について、岸根先生からはカイラル磁性体について、基本的知識から今後の分野の展望についてわかりやすくご講演頂いた。
本研究会は一日を通して質疑時間を超過するまで活発な議論が交わされ非常に盛況であった。詳細は以下の通りである。
- 「スピンオービトロニクス」(基調講演)
○小野輝男(京大)
スピンオービトロニクスについての基礎から応用の可能性まで基調講演として幅広く取り上げ、とりわけスピン軌道相互作用に関する新現象を中心にご自身の最新研究とともにご紹介頂いた。ジャロシンスキー・守谷相互作用とトポロジカルスピン構造の関係や、その電流駆動現象、さらには反強磁性体を用いたスピンオービトロニクスの新展開についての報告がなされた。
- 「1軸性カイラル磁性体:構造・ダイナミクス・機能」(基調講演)
○岸根 順一郎1,Alexander Ovchinnikov2 (1放送大,2ウラル連邦大)
注目を集めているカイラル磁性体について、基礎的な理論的取り扱いから展望まで幅広い内容を基調講演としてご紹介頂いた。特に左右対称性(カイラル対称性)が破れた磁性結晶で実現するカイラル螺旋磁気秩序および螺旋軸に垂直な磁場下で発現するカイラルソリトン格子に関する研究についての現状と展望が紹介された。
- 「金属超薄膜における磁性の電界制御」
○千葉大地(東大)
電界による金属磁石薄膜のスピン操作に注目した研究が紹介された。主に、Co超薄膜におけるキュリー温度やPd中に誘起された磁気モーメントの電界効果、さらに酸化物上に製膜したCo超薄膜の構造的磁気的特性についての興味深い研究が講演された。
- 「カイラル磁性体の磁化ダイナミクスとスピン起電力」
○大江 純一郎(東邦大)
スキルミオン格子の磁化ダイナミクスによって誘起されるスピン起電力について詳細にご紹介頂いた。特に、スキルミオン格子の磁気的な集団励起によって、個々のスキルミオンによるスピン起電力が直列に繋がり、非常に大きな交流電圧が取り出せるという興味深い現象が報告された。
- 「キラルソリトン格子とスピン位相コヒーレンス」
○戸川欣彦(大阪府立大)
単軸性カイラル磁性CrNb3S6単結晶における実験結果が紹介され、カイラルスピンソリトン格子が示す「可変性・非線形・非対称・トポロジカル」といった特異な性質を活用したスピン位相コヒーレンスの制御法に関して議論がなされた。
- 「磁気スキルミオンのダイナミクスとデバイス機能」
○望月維人(青山学院大)
カイラルな結晶構造を持つ磁性体で実現するナノスケールの大きさを持つトポロジカルな磁気渦「スキルミオン」が示す特異な非平衡ダイナミクスと情報担体としての可能性について、最近の理論研究の成果が報告された。
- 「トポロジカル絶縁体薄膜素子における量子ホール効果」
○吉見 龍太郎(東大)
トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態は、磁場や強磁性秩序などによってギャップが開き量子ホール状態となることが紹介された。この現象は積層薄膜素子を用いた研究を通して、薄膜上部・下部にある2つのディラック状態の重ね合わせとして理解できることが報告された。
文責:介川裕章(物材機構)