38.02

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
グラフェンスピントロニクス
出典:
Science 317, 1726 (2007)
 http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/317/5845/1726
概要:
 2次元ナノ分子系であるグラフェンへのスピン注入が世界的にホットな話題となっているため、最新の情報をまとめた。
本文:
 グラフェン(graphene)とは炭素原子による六員環が敷き詰められた2次元グラファイト(graphite)のことであり、2004年にManchester大のグループによりグラフェン薄膜を用いた非常に高い移動度を有する電界効果型トランジスタの作製が報告(Novoselov et al., Science 2004)されて以来大きな注目を集めるようになった材料系である。その背景としては移動度の高さ・フレキシブルトランジスタへの応用可能性もあるが、単層グラフェンにおいてキャリアが質量ゼロのDirac FermionとしてDirac方程式に従い、位相πのBerry位相を有すること(Novoselov et al., Nature 2005. Zhang et al., Nature 2005)、室温においてすら量子ホール効果が観測されること(Novoselov et al., Science 2007.)など基礎物理としての面白さがあるといえよう。そのためか、現在、年に400件以上のグラフェン関連の論文が投稿されているなど非常にホットな研究領域であるのだが、従来スピントロニクスとの融合に関する報告は無かった。ところが今年春以降、グラフェンへのスピン注入について立て続けに報告がなされ、しかもスピン注入が室温でも可能であるために大きな関心を集めている。まず6月に阪大グループがグラフェン薄膜/強磁性電極の系でグラフェンへの室温スピン注入に成功(Ohishi et al., JJAP 2007)し、直後の7月にはGroningen大グループが単層グラフェンと強磁性電極間にトンネル層を挿入することで同様に室温スピン注入に成功した(Tombros et al., Nature 2007)。また2Kという低温ではあるがMinnesota大グループもグラフェン薄膜へのスピン注入を報告している(Nishioka et al., APL 2007)。グラフェン系ではキャリア濃度のチューニングによってバリスティックなスピン輸送が期待できる上、カーボンナノチューブに比べ表面吸着物質の影響も小さいことが予想できるため、グラフェンスピントロニクスが今後大きく発展する可能性があると思われる。  

(大阪大学 白石誠司)

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