12.01(Nature vol.435, p.71)

分野:
磁気物理
タイトル:
超電導薄膜の磁束量子で磁性半導体のスピンと電荷を局所的に制御
概要:
 British Columbia大のBerciuらは超電導薄膜の磁束量子を用い隣接する希薄磁性半導体のスピンと電荷を局所的に変調する手法を理論的に提案した。(Nature vol.435, p.71) 外部磁場で磁束量子の配列周期を変化させると、それに対応したBloch振動や異常量子ホール効果が観測される筈としている。
本文:
 
British Columbia大のBerciuらは超電導薄膜の磁束量子を用い隣接する希薄磁性半導体のスピンと電荷を局所的に変調する手法を理論的に提案した。(Nature vol.435, p.71)
 第二種超電導薄膜に磁界を印加すると磁束量子ができる。この磁束量子の強度はφ0/2でサイズは磁束進入長(Nbで約39nm)程度であり、一般に三角格子を形成する。磁界強度を上げていくと磁束量子の強度は変わらずその配列の周期が変化する。一方、常磁性の希薄磁性半導体(DMS)ではその非常に大きな有効g値のために巨大なゼーマン分裂が起こり、スピンの整列状態とそれによるスピン依存バンド構造が変化する。この二つの薄膜を積層したハイブリッド構造に磁界を印加すると、超伝導薄膜中に周期的に配列した磁束量子から漏れ出てくる磁界により、DMS膜中にはスピンと電荷の分布に空間的な変調が誘起される。さらに、この変調周期は外部磁界強度で制御することができる。この興味深い現象を利用して、著者らはBloch振動や異常量子ホール効果が観測できることをシミュレーションにより示した。
 この手法を利用すれば、磁性半導体だけでなく、たとえば周期的な電子のスピン依存散乱といった興味深い実験を行うことも可能であると思われる。数10nmのオーダの局在磁界なので、量子効果も観測されるかもしれない。外部からさらに磁界を印加する場合には何らかの工夫が必要であるが、いろんな派生実験が期待される興味深い論文である。

(東芝 喜々津 哲)