30.02
- 分野:
- 磁気物理
- タイトル:
- Mn-Ir/Co-Fe積層膜の交換磁気異方性の起源
- 出典:
- Applied Physics Letters 89, 172501 (2006)
- 概要:
- Mn-Ir/Co-Fe積層膜のMnのL吸収端XMCD測定から、積層界面での交換結合を通してMnスピンに強磁性成分が誘起されていることが見出された。またMn3d軌道成分を選択した元素選択ヒステリシスループの測定から、Mn-Ir/Co-Fe積層膜の交換磁気異方性起源はこれまで言われていたモデルでは説明できないと報告された。
- 本文:
- Mn-Irは強磁性/反強磁性積層膜の交換結合膜において、他の反強磁性材料より交換磁気異方性が導出される臨界膜厚が薄いため、超高密度HDD用スピンバルブの反強磁性材料として期待されている。交換磁気異方性の起源は、これまでOhldagらの(Phys. Rev. Lett. 91, 017203 (2003))、強磁性/反強磁性積層膜の反強磁性に誘起された非補償スピン成分に伴う強磁性成分の一部が強磁性層の磁化反転に際してピニングされた状態を保ち、交換磁気異方性の起源となっているというモデルで説明されていた。
Tsunodaらは(Appl. Phys. Lett 89, 172501(2006))、Mn-Ir/Co-Fe積層膜において、反強磁性層が規則構造なものと不規則なものとの試料について、MnのL吸収端XMCD測定を行い共に積層界面での交換結合を通してMnスピンに強磁性成分が誘起されていることを見出した。また、どちらの構造でも、反強磁性層のMn3d軌道成分を選択した元素選択ヒステリシスループには、Ohldagのモデルが正しければ観測されるはずの縦シフトが観測されず、これまで言われていたモデルでは、交換磁気異方性の起源が説明できないと報告した。Mn3dの元素選択ヒステリシスループをCo3dのものと比較すると、非補償スピンMnモーメントは強磁性層のCo-Fe層のCoモーメントの反転・回転によく追随していしていること、規則構造でも不規則構造でも非補償スピン成分のピニングが見られることもわかった。
反強磁性層におけるスピンの磁化過程の解析は、交換磁気異方性の起源の理解に不可欠であり、今後の材料設計の指針に役立つと期待される。
(日本原子力研究開発機構 安居院あかね)