第197回研究会報告
「高感度磁気センサの研究と製品」
- 日時:
- 平成26年7月11日(金)10:20~16:40
- 場所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 73名
本研究会では一日をかけて高感度磁気センサを取り上げ、最新のスピントロニクス技術を用いた次世代センサの可能性から、実用されているセンサの現状までと、分野の全体を見通せる7件のご講演を頂いた。磁気センサへの期待の高さを伺わせて、会場が参加者であふれんばかりの盛況ぶりであり、活発な質疑応答が行われた。参加者の7割が企業研究者(31社51名)である点も特筆すべきであった。休憩時間には研究会の初めての試みとして、本研究会の協賛である村田製作所のご厚意により、最新の磁気センサ製品を展示していただき、こちらも展示品の前に人だかりができて好評であった。講演内容の詳細は以下の通りである。
- 「スピンゼーベック効果のデバイス応用への展望 ―熱電変換・センサー応用に向けて―」
内田健一(東北大、JSTさきがけ)
スピンゼーベック効果は強磁性体/常磁性体接合界面において発現する熱流-スピン流変換現象であり、この効果を用いることで従来技術では不可能だった“絶縁体を用いた熱電変換”を実現できることが報告された。また、スピンゼーベック効果の実証実験の一例が紹介され、スピン流に基づく新しい熱電変換技術の可能性や熱センサへの応用についてもご講演いただいた。
- 「ダイヤモンド中のNV中心を用いた高感度磁気センサー」
水落憲和(大阪大)
ダイヤモンド中の単一窒素-空孔複合体(NV中心)では固体で唯一、室温で単一スピンの操作・検出が可能であることから、量子情報やナノメートルレベルの高空間分解能かつ高感度な磁場センサへの応用が期待されていることが紹介された。また、最近のトピックスや最新の研究成果についてご報告いただいた。
- 「強磁性トンネル接合を用いた高感度磁場センサの応用と展望」
○安藤康夫1、西川卓男2、藤原耕輔1、中野貴文1、加藤大樹1、大兼幹彦1、永沼博著1(1東北大、2コニカミノルタ)
強磁性トンネル接合を用い、S/N比向上のための各種回路を組み込んだ、室温動作磁場センサモジュールの作製についての最新の研究をご紹介いただいた。また、このセンサ特性、生体磁場検出に向けての必要な技術課題、並びに、将来の展開の可能性についてまで踏み込んでご報告いただいた。
- 「能動磁気シールド及び心磁計測のための高分解能フラックスゲート」
○笹田一郎、加呂 光、 Abdelmomen Mahgoub(九州大)
高感度低雑音の基本波型直交フラックスゲートについてのご研究を紹介頂いた。このフラックスゲートをアレイ状にし、心電波形をトリガとして心磁界を2分間同期加算することで、その時間的空間的分布を良好な精度で計測できることが報告された。
- 「MIセンサの開発と電子コンパス・磁気ジャイロへの応用」
本蔵義信(愛知製鋼)
磁気インピーダンス(MI)センサは、1992年毛利教授による発明以後、パルス駆動、コイル検出方式、MEMS素子化、集積回路などと技術進歩が続き電子コンパスとして携帯電話に実用化されるに至り、2012年度産官学連携功労賞を受賞されたことが報告された。また、最新のMIセンサの開発状況と今後の課題についても紹介された。
- 「磁性薄膜電力センサ」
辻本浩章 (大阪市立大)
最新の磁性薄膜電力センサが紹介され、従来の電力計に比べ飛躍的に小型・軽量等の特徴を有し、交流電力、直流電力共に精度よく測定することができることが報告された。この電力センサを用いたきめ細やかな電力管理により、スマートな省エネルギー型社会の促進に繋がることが期待されると報告された。
- 「村田製作所における半導体MR素子の商品」
中村順寿 (村田製作所)
InSbを用いた半導体磁気抵抗素子(SMR素子)を用いたセンサ製品をご紹介いただいた。この素子は垂直方向の磁界変化に応じて抵抗変化する磁気抵抗効果によって動作する。本講演ではSMR素子の改良と応用製品の開発に長年取り組んできた試みについて報告された。また、その応用製品と技術動向についても紹介いただいた。
文責:介川裕章(物材機構),佐々木智生(TDK),中村志保(東芝)