9.04
9.04(第10回ナノマグネティックス専門委員会・第12回ハイブリッド記録専門委員会の合同研究会報告)
超高密度磁気記録の更なる飛躍を目指して
2005年 2月 1日-2日の2日間にわたり、日大理工学部駿河台校舎において「超高密度磁気記録の更なる飛躍を目指して」をテーマにして、第10回ナノマグネティックス専門委員会・第12回ハイブリッド記録専門委員会の合同研究会が参加者110名を得て開催された。講演内容の概略は以下の通りである。
押木満雅(富士通研)氏は、「磁気記録の将来」とのタイトルで講演を行なった。磁気記録は一時の劇的な進展時期を過ぎたが、着実な技術進展を続けている。先ず、技術進展のmotivationとなっている課題点を整理し、それらの対策案を述べ、更に将来に位置すると考えられている磁気記録の形態を述べた。
松沼悟(日立マクセル)氏は「高記録密度対応磁気記録媒体」とのタイトルで、 高密度記録媒体の磁性膜として多く使われるCoPtCr・SiO2磁性膜の微細構造についてEDS(Energy Dispersive Spectrometry)による組成分析の結果、室温・非加熱で形成した面内磁気記録媒体および垂直磁気記録媒体の特性と構造などを紹介した。
金井靖(新潟工科大)氏は「垂直磁気記録単磁極ライトヘッドの記録磁界解析」とのタイトルで、有限要素法によるCF-SPT(Cusp-Field Single-Pole-Type)ヘッド磁界計算と媒体のLLG(Landau-Lifshitz- Gilbert)マイクロマグネティックス計算を用いて、記録トラック幅、サイドイレース幅、S/Nを導出した。また、構造を簡単化して系全体のLLG解析を行った。
岩崎仁志(東芝)氏は「CPP-GMRの高MR化技術」とのタイトルで、200Gbit/inch2越の面記録密度を目指したCPP(Current Perpendicular to Plane)型GMRヘッドに必要な抵抗変化率の増大技術を紹介した。FeCo/Cu積層磁性材料により、従来型のCoFe/NiFeに比べて抵抗変化率を2~3倍に、また、電流狭窄型の極薄酸化層をスペーサに挿入することにより10倍に増大可能であることを示した。
吉田和悦(工学院大)氏は「マイクロマグネティックモデルを用いた垂直磁気記録・再生過程の計算」とのタイトルで、 グラニュラ媒体、ハイブリッド媒体など4種類の垂直磁気記録媒体についてその記録特性をマイクロマグネティックシミュレーションにより比較、検討した。また、MR(Magneto-resistive)ヘッドの再生特性を媒体SUL(Soft Under Layer)の相互作用を含めて計算し、解析的手法との比較を試みた。
久保川昇(IT総合研)氏は「HDDの最新市場動向と将来展望」とのタイトルで講演を行なった。HDD市場が成長を続けている。2004年の出荷台数は3億台の大台を超えた。このうち3900万台がコンシューマ製品向けである。今後も最大のアプリケーションであるPCが堅調に推移するうえ、大容量を必要とする新たなアプリケーションが加わることによって市場は「黄金時代」を迎えるとの見通しが紹介された。
中川活二(日大)氏は「ハイブリッド光磁気記録と今後の展開」とのタイトルで、光磁気記録で培われてきた光と熱に関する技術を整理して説明し、ハイブリッド記録との関連性を示しながら、その記録技術を紹介した。近接場光解析結果等を示すと共に、今後、光、熱を利用した磁気記録技術が益々重要になることを示した。
猪又明大(富士通研)氏は、「高保磁力媒体における熱アシスト記録の効果」とのタイトルで講演を行なった。熱アシスト記録の効果に関し、スピンスタンドを用いた詳細な実験データに基づいて議論した。磁気ヘッドだけでは記録不可能な高保磁力媒体でもレーザを用いて記録時に加熱することで記録特性が大幅に改善することを示した。
赤城文子(日立)氏は「熱アシスト垂直記録における光照射の位置とタイミングの最適化検討」とのタイトルで講演を行なった。垂直磁気記録装置と近接場光を用いた熱アシスト磁気記録装置において、高記録密度を達成するため、最適な光照射タイミングと媒体走行方向における光照射位置を、マイクロマグネティックスを用いた計算機解析により明らかにした。
加藤剛志(名大)氏は「温度・磁界勾配を利用した熱磁気記録のシミュレーション解析」 とのタイトルで講演を行なった。TbFeCoに磁界変調記録により孤立マークを形成する際の熱磁気記録過程をHuthモデルに基づいてシミュレートし、記録過程における温度、磁界勾配の効果を検討した。温度勾配のみを利用した現行の記録方式に対し、最大磁界勾配10 Oe/nm程度のGauss分布磁界を導入することにより、マーク長の増大、記録マークの安定性、ともにかなり改善されることを示した。
塚本新(日大)氏は「フェムト秒パルスレーザを用いた高速磁化反転の可能性とダンピングファクタ計測」とのタイトルで、高速磁化反転研究の現状を紹介するとともに、フェムト秒パルスレーザによる光学的手法を用いた高速磁化応答計測法によるGdFeCo垂直磁化膜のダンピング特性評価結果を明らかにし、高速磁化反転の可能性を示した。
武田実(ソニー)氏は「局所真空方式電子ビーム露光装置を用いた次世代光ディスク原盤マスタリング」とのタイトルで講演を行なった。ディスク原盤電子線露光装置として、局所真空方式により大気中処理でナノスケール加工が可能な装置を開発し、100GB密度では信号再生を実現、150GB密度(104Gbit/inch2)ではピットパターン形成により将来の高密度化の見通しを示した。
岡本聡(東北大)氏は「超高密度記録材料としてのL10-FePt」とのタイトルで、次世代の超高密度媒体材料として有望視されているL10-FePtについて、ナノ領域における基本的な磁気的、物理的性質から媒体材料としての可能性を示した。さらに、現在までに提案されている幾つかの次世代記録方式について、L10-FePtの適用の可能性についても議論した。
小野寛太(高エネ研)氏は「放射光光電子顕微鏡を用いた磁区観察」とのタイトルで、ナノメートル・スケールで磁区観察を行うことが出来る手法として注目を集めている放射光による光電子顕微鏡について、その原理・特徴の紹介から軟X線や硬X線を用いた最近の研究展開まで講演を行った。
(富士通研 戸田順三、松下電器 尾留川正博)