114.02

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
電圧誘起垂直磁気異方性によって制御されたスピントルク・ダイオード効果
出典:
“Spin-torque diode radio-frequency detector with voltage tuned resonance”, Appl. Phys. Lett. 105, 072409 (2014).
 
 
概要:
CoFeB/MgOトンネル磁気接合に直流電圧を印加しながらスピントルク・ダイオード効果を測定したところ、スペクトルのピーク周波数のシフトを観測した。このシフトから電圧誘起垂直磁気異方性を定量的に評価することに成功した。
 
 
本文:
AGH科学技術大学のSkowronskiらは面内磁化したCoFeB(2.3nm)/MgO(1.6nm)/CoFeB(1-
2nm)多層膜におけるスピントルク・ダイオード効果を測定し、共鳴周波数が電圧誘起垂直磁気異方性(以下、単に電圧効果と呼ぶ)によって変化していることを見出した。スピントルク・ダイオード効果 (A. Tulapurkar et al., Nature 438, 339 (2005)) はスピントルクを用いた強磁性共鳴 (FMR) であり、ナノスケールの素子のFMRであること、またそのスペクトルから単に磁気異方性やダンピングが測れるだけでなく、スピントルクの大きさが評価できる点で画期的な方法である。一方で数学的な面から見れば線形振動子の共鳴にすぎず、問題が簡単である反面、新しい物理を見出すのは難しい。今回のSkowronskiの研究はスピントルク・ダイオード効果の中に電圧効果を見つけたという点で面白いものである。電圧効果はMgO絶縁層とCoFeB強磁性層の界面に生じるもので、その効果が十分に大きくなると面内磁化膜を垂直に立たせることや、磁化を反転させることが可能となる。そのため磁気メモリへの応用が期待されている。電圧効果ではジュール熱の発生が抑えられ、エネルギー損失が飛躍的に小さくなると考えられていることが、この研究が注目される要因の一つであろう。Skowronskiの実験ではMTJに印加した直流電圧(±1V)の変化に応じてスペクトルのピーク位置に97MHz/Vのシフトが見られた。これは電圧効果によってFMR周波数が変化しているためと考えられる。Skowronskiはこのシフトから電圧効果を4kJ/(m3V)と見積もることに成功した。このような成果が、電流によるスピントルク効果に比べればまだ萌芽的研究の段階である電圧効果の研究を刺激し、スピントロニクスの新たな研究テーマを提供していくことを期待する。

(産総研 谷口知大)

スピントロニクス

前の記事

114.01
スピントロニクス

次の記事

114.03