磁石(初級)
- Q 1.
- どうして磁石に鉄がつくのですか?
- Q 2.
- 永久磁石とはどんなものですか?
- Q 3.
- 永久磁石にはどんな種類がありますか?
- Q 4.
- 棒磁石を折るとどうなりますか?
- Q 5.
- 磁石はどこまで小さくできるのですか?
- Q 6.
- 磁石にはN極・S極がありますが、N極やS極だけの磁石はないのでしょうか?
- Q 7.
- 磁石の引き寄せる力について、磁石の磁化の強さと、距離でどのように変わりますか。(引き寄せる物体は磁性があるとします)
- Q 1.
- どうして磁石に鉄がつくのですか?
- A 1.
-
鉄やコバルトなどは強磁性体と呼ばれており、原子そのものは永久磁石になっています。しかしながら、それら原子はいくつかの集団(小さな永久磁石の塊)をつくり、”磁区”を形成しています。この磁区は磁極の向きがバラバラであるために、鉄全体としては磁力は打ち消されており永久磁石とはなっていません。
ここで、鉄に弱い磁界をかけると鉄原子の磁石は外部の磁界に対して敏感に反応するために、鉄原子の磁石は一斉に磁界と同じ方向に磁極を向けます。その結果、磁区はなくなり鉄全体が磁石になるのです。ここで、磁界を取り去ると、再び磁区ができ磁石ではなくなります
磁石が鉄につくのは、磁石が発生した磁力(磁界)により、鉄が磁石になっているためです。例えば、鉄製のクリップに磁石を近づけると、クリップは磁石となって磁石にくっつきます。また、磁石にくっついたクリップはそれ自体が磁石に変化するので、他のクリップを引き付けるのです。
回答作成: 平成16年度MSJ企画委員会
- Q 2.
- 永久磁石とはどんなものですか?
- A 2.
-
作りたての磁石材料は磁区を作って磁力を打ち消しあっています。この磁石材料を形成している鉄などの強磁性体の原子磁石は外部の磁界に敏感に反応して磁極の向きを変えます。
永久磁石では鉄原子が簡単に磁極の向きを変えないような工夫がなされており、外部から磁界をかける作業(着磁)により磁区をなくしてしまったあとは、外部磁界を取り除いても元の磁区構造に戻らずに”永久”に磁石になります。
例えば、永久磁石の1つであるNd-Fe-B (ネオジム-鉄-ホウ素)磁石では、ネオジム原子が鉄原子の磁極の向きを特定の方向に固定するのです。
永久磁石は磁界により磁区をなくしたあと、磁界を取り去っても磁区ができず、自ら磁力を発生し続けます。
鉄原子だけだと磁極の向きはふらふらしていますが、ネオジム原子にはそれを抑える働きがあります。
回答作成: 平成16年度MSJ企画委員会
- Q 3.
- 永久磁石にはどんな種類がありますか?
- A 3.
-
永久磁石は、物質の構造的な特徴から・合金磁石・フェライト磁石・希土類磁石の3つに分類されます。それぞれについて説明します。
合金磁石
鉄を主成分とする合金で、永久磁石としてはもっとも古い歴史を持ちます。代表的なものに
- Fe-Al-Ni-Co磁石
(鉄-アルミニウム-ニッケル-コバルト、アルニコ磁石と呼ばれている) - Fe-Cr-Co磁石
(鉄-クロム-コバルト磁石)
などがあります。
これらは次に説明するフェライト磁石の2~3倍もの高い磁力を発しますが、保磁力(磁石の磁極が反転してしまう逆向きの磁界の大きさ)が低いため、磁石自信が発した磁界で磁力が弱くなることもあります。 ですから、磁石やそれに鉄を組み合わせた磁気回路では、できるだけ磁力が弱くならないような(専門用語ではパーミアンスを高くとるといいます)形状にしなければなりません。また、温度に対して磁力非常にが安定しているという特徴もあります。
その他の合金磁石の中で、Fe-Pt(鉄-白金)磁石やCo-Pt(コバルト-白金)磁石は高い磁力に加えて非常に大きな保磁力を示す高性能磁石として知られていますが、原料に貴金属を使うことと、さらに高性能な希土類磁石が開発されたことから、あまり開発が進められませんでした。 しかしながら、近年は磁気記録用媒体として再び注目を集めています。
フェライト磁石
鉄の酸化物をフェライトと呼び、これを原料として作られた永久磁石をフェライト磁石と呼びます。一般にフェライトといいますとノイズフィルターやコアなどに用いられるものを指しますが、これらと区別するためにハード・フェライトと呼ぶこともあります。
磁力は3種類の磁石の中で最も低いのですが、酸化鉄が主成分ですから非常に安価でなおかつ耐食性も良いため、現在最も多量に使用されている永久磁石です。保磁力も比較的大きいので、パーミアンスを低くすることができ、磁石あるいは磁気回路の設計に自由度があります。紙をホワイトボードに貼り付けるときのピン磁石や自動車の初心者マークはフェライト磁石です。初心者マークはフェライト磁石の粉をゴムに練り込んだもので、ゴム磁石と呼ぶこともあります。
ゴムの変わりにプラスチックに煉り込んだプラスチック磁石もあり、これらをまとめてボンド磁石あるいはボンデッド磁石と呼びます。希土類磁石
希土類元素(周期律表のランタニドと称される一連の元素)とコバルトあるいは鉄からなる金属間化合物を主成分とした磁石です。この磁石は合金磁石とは違い、硬くて脆いという特徴があります。どちらかというと、セラミックのような性質です。
代表的なものに、
- Sm-Co磁石
(サマリウム-コバルト) - Nd-Fe-B磁石
(ネオジム-鉄-ホウ素磁石、単にネオジム磁石ともいう)
などがあります。
希土類磁石の特徴は非常に強力なことで、強さを示す最大エネルギー積で比べてみるとフェライト磁石の10倍以上です。 非常に強い磁力を利用して、従来は超電導磁石を用いていたMRIの磁界発生源、ハードディスクドライブのモータ(スピンドルモータとボイスコイルモータ)、エアコンのコンプレッサ、ハイブリッド自動車のモーターなどに使用されています。
また、磁力が強いということは磁石を小さくできるということであり、ヘッドホン、CDやDVDのピックアップ、携帯電話の振動モータなどの小型化に貢献しています。 - Fe-Al-Ni-Co磁石
- Q 4.
- 棒磁石を折るとどうなりますか?
- A 4.
-
棒磁石にクリップを付けると両端にしかつきません。棒磁石のまん中は磁石として働いていないように見えます。しかしながら、その棒磁石を折ると、折ったところに新たな磁極が現れて、クリップを引き付けるようになります。
●磁石内部では小さな磁石が向きを揃えて整列している
永久磁石の場合では、原子自体が永久磁石になっており、それらのが磁極の向きを揃えて列んでいます。磁石内部では隣りあうN極とS極により磁極は打ち消されるので、棒磁石の端にのみ磁極が現れます。
回答作成: 平成16年度MSJ企画委員会
- Q 5.
- 磁石はどこまで小さくできるのですか?
- A 5.
-
図1のように、細長い磁石を真中で半分に切ると、短い磁石が2つ出来ます。この2つの磁石のそれぞれを、真中でさらに半分ずつに切ると、同じように磁石が4つできます。同じ操作を繰り返していくと、どんどん短い磁石が出来ていきます。
図1. 磁石を長さ方向に切った様子
図2. 磁石を幅方向に切った様子また、図2のように、磁石の幅方向に半分に切っても、細長い磁石が2つ出来ます。この磁石の幅方向にさらに半分に切っても、同じように磁石ができます。磁石にこのような性質があるのは、図3のように、磁石が向きの揃った小さなミニ磁石からできているからです。そして、磁石の大きさがミニ磁石より小さくなると、磁石としての性質がなくなってしまいます。
物質を構成する原子には、スピンと呼ばれる磁気の最小単位の磁性があります。ミニ磁石は、そのスピンが向きを揃えて数多く集まったものです。磁石になる代表的な物質として鉄が知られていますが、鉄のミニ磁石は、一辺が約15ナノメートルの立方体の大きさになります(1ナノメートルは、1ミリメートルの百万分の1の大きさです)。
図3.磁石とミニ磁石ホワイトボードについている、紙を止めるためのピン磁石はフェライト磁石と呼ばれる永久磁石で作られています。フェライト磁石は鉄の酸化物が主成分のセラミックですのでハンマーで叩けば簡単に割ることができます。 棒磁石と同様に、割れたフェライト磁石の破片一つひとつは磁石のままです。 自動車の初心者マークは1マイクロメートルくらいのフェライト磁石の粉をゴムに練り込んだものです。
回答者:秋田県高度技術研究所 鈴木 淑男
- Q 6.
- 磁石にはN極・S極がありますが、N極やS極だけの磁石はないのでしょうか?
- A 6.
-
磁石の発生している磁力の根元は電子です。電子は最小の磁石でN極・S極があり、たくさんの電子のN極・S極の方向をそろえたものが磁石です。 電子はそれ以上分けることはできないのでN極だけやS極だけの磁石はありません。
もしN極だけを持つ素粒子が存在し、それを集めることができればN極だけの磁石になります。 しかしながら現在までそのような素粒子は見つかっていませんので、N極だけやS極だけの磁石もありません。
回答者:物質・材料研究機構 古林 孝夫
- Q 7.
- 磁石の引き寄せる力について、磁石の磁化の強さと、距離でどのように変わりますか。(引き寄せる物体は磁性があるとします)
- A 7.
-
磁性体の間に働く力は、磁性体の形状によって大きく変化するので具体的な値を計算するためには、有限要素法などを用いた数値計算が必要になります。この原因は磁性体間に働く力が、磁石の作る磁場の場所による変化によって力の大きさが決定されるためです。したがって、磁石の形状のみならず、質問にある磁性を持った対象と言うのが磁石のように外部磁場に対して磁化状態が変化しにくい物質なのか、あるいは鉄やニッケルのように外部磁場に対して磁化状態が変化しやすい物質であるかによっても状況が変わります。具体的数値が必要な場合には、電磁場解析のソフトを販売しているようなメーカに問い合わせれば、有償の解析を行ってくれるところがあると思います。
さて、上記の内容を考慮頂いた上で単純化したお話をします。
磁性体間の力の源はクーロン相互作用と呼ばれ、磁性体の有する磁化の2乗に比例し、磁性体間の距離の2乗に反比例した力を受けます。質問の例では、磁石に引き寄せられる物体の磁化が変化しないと仮定すれば、クーロン力は磁石の磁化に比例することになります。上記の仮定の範囲で、例えば対象が両方とも1mm以下のような十分小さな場合で、3500ガウスの磁石を5mmの間隔での引き寄せる力と、12000ガウスの磁石にて10mmの間隔で引き寄せる力を比べてみましょう。
磁石の強さである3500/12000の比で力の強さが変わります。一方、距離に関しては2乗に反比例ですので(10×10)/(5×5)の比で力の強さが変わります。前者の比が0.29に対して後者の比が4ですから、0.29×4=1.16 > 1となることから、強さ12000Gaussで距離10mmの条件の方が、引き寄せる力が弱くなると予想されます。
回答作成: 平成17年度企画委員会