第248回研究会/第72回強磁場応用専門研究会報告

「電解質溶液への電磁流体力学効果とその応用」

日時:2024年6月3日(月)13:00 ~ 17:20
場所:ハイブリッド開催(現地開催およびオンライン開催)
現地会場:連合会館
参加者:16名(現地11名 + オンライン5名)

 電磁流体力学(Magnetohydrodynamics, MHD)は,磁場中での導電性流体の運動を取り扱う学問分野である.20世紀中頃よりプラズマや液体金属を主な対象として発展し,核融合や宇宙・地球科学の分野に応用されてきた.さらに強磁場領域では,電解質水溶液においても様々なMHD効果を観測することが可能である.本研究会では,幅広い分野(流体力学,材料科学,磁気科学,分析化学,電気化学,環境科学)でご活躍の6名の先生方に,強磁場中でのMHD効果に関してご講演いただいた.

  1. 「MHD流れの方程式と代表的な流れ」

    ○上野和之 (岩手大)

     MHDの理論的背景に関してチュートリアル講演を頂いた.まず,質量保存則,運動量保存則,電磁運動量保存則の3つの基礎方程式が示され,それぞれの項が示す意味が説明された.基礎方程式から誘電体・磁性体に作用する電磁力とMaxwell応力の関係が示された.導電性流体を自由電子,陽イオン,中性分子の混合流体と考え,電荷の保存則と電流密度の考察から,一般化されたOhmの法則が得られることが説明された.導電率の高いプラズマや溶融金属を対象として理論が発展しており,導電率の低い電解質溶液では,イオンの拡散や電極反応,界面付近の取扱いに注意が必要であることが説明された.

  2. 「液体金属処理プロセスへの電磁場の応用」
    ○岩井一彦(北大)

     はじめに,溶鉱炉を用いた鉄鋼製造において要求される様々な処理(撹拌,介在物の除去,表面の乱れの抑制など)について紹介された.溶融金属は高温であり上記のような処理は困難であるが, 導電性であるため,非接触操作が可能なMHDをはじめとした電磁プロセッシングを利用できることが報告された.交流磁場の印加による液体金属表面の平坦化,磁場と電流の重畳印加による結晶粒の微細化,交流磁場と誘導電流の相互作用による非金属介在物の除去など,種々の溶融金属処理法が紹介された.

  3. 「磁気電析によるキラル界面生成とキラル対称性の破れ」
    ○茂木 巌(元東北大)

     MHD効果によるキラル発現に関する講演を頂いた.強磁場中で電析した銅薄膜を作用電極として-アミノ酸のボルタモグラムを測定すると,光学異性体間で酸化電流の大きさが異なることが紹介された.このキラル選択性はMHD渦流により誘起される銅電極界面のミクロならせん構造が原因と考えられる.電極の回転や,塩化物イオンの添加による界面の平滑化,電極サイズなど,電析条件の詳細な検討を行ったところ,安定したマイクロMHD渦流が得られる条件でキラル選択性が高くなることが示された.

  4. 「微小領域における磁気流体力学効果を利用した分離・分析法の開発」
    ○飯國良規(名工大)

     マイクロ流体デバイスを利用した分離・分析に電磁気力を制御因子として加えた取り組みが紹介された.電解質溶液に対してローレンツ力を作用させることで,ポリスチレンなどの微粒子のサイズ分離が可能であること,また,微粒子の表面電気伝導度についての情報が得られること,また,海水中のプランクトンの分離分析が可能であることが示された.導電性と非導電性の水溶液で構成されるマイクロ二相流では,ローレンツ力により二相流の回転現象が誘起され,幾何学的構造に依らない流れの制御ができること,マイクロ微粒子の粒径による分離や粒子の表面修飾の違いによる分離が実現することが紹介された.

  5. 「海流MHD発電手法の開発に向けた海水電解に及ぼす磁場の影響解明」
    ○青木 誠(トヨタ紡織)

     青木氏が神戸大所属時に取り組んだ,海水および海流の運動エネルギーを利用した海流MHD発電について紹介された.MHD発電では,磁場と直交して導電性流体を流すことで起電力を得る.海流の運動エネルギーは定常性が高く安定した発電が期待できる他,カソードで発生する水素もエネルギー利用できる.リニア型海流MHD発電機を再現する電気化学セルを構築し,電気化学測定を行なった結果,反応活物質にローレンツ力が働くことによる反応電位シフトが観測され,流速および磁場強度が海流MHD発電中の海水電気分解反応に及ぼす影響を明らかにした.また,水素発生効率が向上することを確認した.

  6. 「電磁アルキメデス力を用いたマイクロプラスチック分離の可能性」
    ○野村直希(福井工大)

     近年,環境問題として認識されているマイクロプラスチックによる海洋汚染への対策として,電磁アルキメデス力を利用した分離の適用を検討した結果について紹介された.導電性流体にローレンツ力を作用させた際,絶縁物であるマイクロプラスチックが相対的に受ける電磁アルキメデス力が分離の駆動力となる.シミュレーションによる分離条件と処理量の関係に関する考察や,磁場発生源として永久磁石,超伝導磁石を用いるそれぞれのケースで,想定される装置構成とそれらの特徴や課題について述べられた.

文責:諏訪雅頼(阪大),廣田憲之(NIMS)