第247回研究会報告

「リサイクル技術やレアアースフリー磁石を中心とした磁石開発の進展」

日時:2024年3月28日(木)13:00~17:20
場所:ハイブリッド開催(現地開催およびオンライン開催)
現地会場:連合会館
参加者:41名(現地12名,オンライン(Zoom)29名)

 近年,カーボンニュートラルに向けた自動車電動化の急速な拡大などを背景にネオジム磁石の需要が増加しており,ネオジム磁石に使用されるレアアースの資源リスクが改めて注目を集めている.レアアース使用量の低減や資源循環の観点から,永久磁石のリサイクル技術やレアアースフリー磁石開発の取り組みが精力的に進められており,実用化に向けた今後の更なる発展が期待される.本研究会では,これらの研究分野から7名の研究者の方々をお招きし,6つのテーマについて講演いただいた.リサイクル技術やレアアースフリー磁石開発の現状や将来展望をはじめ,材料開発に寄与するシミュレーション技術や,レアアース削減につながるモータ開発の現状や将来展望などが示され,大変興味深いものであった.聴講者からの高い関心もうかがわれ,活発な質疑応答がなされた.

  1. 「Sm2Fe17N3 ボンド磁石のリサイクルプロセスに関する研究」

    ○山本宗生,佐々木貴弘,川村訓康,山下貴之(日亜化学)

     Sm2Fe17N3 ボンド磁石のリサイクル方法の検討結果が紹介された.日亜化学のボンド磁石製造工程に対して,4つのルートで製造工程に製品を戻してリサイクルすることを想定し,各々のリサイクルルートの実現可能性を検証した取り組みが紹介された.いずれのルートにおいてもリサイクルが可能であることが示された.製造工程のうち,原料となるSmとFeを一旦イオン化し調整する水中イオン化工程が存在することで,様々なリサイクルルートが可能になることが解説された.

  2. 「フラックス法によるEVモータからのレアアースの回収」
    ○山口勉功(早大)

     電動車用ロータからフラックスを用いて簡便にレアアースを回収する技術が紹介された.電動車のロータを高温で溶融しレアアースを選択的に酸化した後に,Na2Ba4O7フラックスを添加して溶融することでNa2Ba4O7-RExOy系スラグとしてレアアースを分離・回収可能であることが示された.一般的に,モータは難解体性であり磁石の分離に多大な労力が必要となるが,開発された方法を用いることで磁石消磁やモータ分解の省力化が可能となり,大量処理や処理時間短縮化の可能性があることが解説された.

  3. 「超高速モータ用高磁束プラスチック磁石ロータ」
    ○吉永誠一郎1,○吉田征弘2,半田修士2,大依 仁1,田島克文2
    1 IHI,2 秋田大)

     高磁束プラスチック磁石ロータを適用した電動ブロアが紹介された.プラスチック磁石をハルバッハ配列と同様に磁場配向することで磁石の利用効率を最大化し,モータの高効率化,小型化,軽量化を実現したことが報告された.ネオジムボンド磁石あるいはSmCo焼結磁石を用いた回転子を試作し,ブロアとしての出力特性を比較したところ, 45,000 rpmにおける最大出力時の効率はネオジムボンド磁石を用いたブロアのほうが3.7ポイント高く,75.6 %となることが示された.航空機電動化に要求される高出力,小型化に貢献し,レアアースの使用量の削減にも寄与できる点が紹介された.

  4. 「L10型FeNi 磁粉の合成と高保磁力化」
    ○柳原英人(筑波大)

     開発した窒化脱窒素法で作製したL10-FeNiの規則度に寄与するプロセス因子の検討と,薄膜を活用した保磁力ポテンシャル見積もりの試みについて紹介された.脱窒素しやすい組織を実現することで規則度を向上させることが可能であり,膜厚20 nmのFeNi島状薄膜を脱窒素させた場合,粒径100 nmのFeNiN接合粒子集合体と比較して脱窒素温度が低下し,規則度が0.71から0.8に向上することが示された.また,LaAlO3(110)基板上に形成した島状L10-FeNi薄膜では319 kA/mの保磁力を実現したことが示された.

  5. 「窒化鉄系材料の現状と今後の展望」
    ○小川智之(東北大,Future Materialz)

     窒化鉄系材料について,最適な原材料粉末の合成と,それを用いた強磁性窒化鉄粉末の磁気物性値が紹介され,バルクFeの飽和磁化を超える,室温で226 Am2/kgの値が示された.また,Feサイトを第三元素で置換したα’-(Fe,M)-N薄膜の熱分解温度について紹介され,置換量10 at%以上において,Cr置換で400 ℃程度,Mo置換では500 ℃以上まで熱分解温度が増大することが示された.α’’-Fe16N2粉末とSm-Fe-N粉末との複合化についても言及され,Fe16N2粉末とSm-Fe-N粉末間での強い磁気的相互作用の存在を示唆する結果が紹介された.

  6. 「磁石材料解析のためのシミュレーション技術」
    ○田中智大,安宅 正,星名 実(富士通)

     永久磁石や磁気デバイスの研究開発への貢献を目指して講演者らが開発した,ミクロなスケールでの磁化挙動を解析できるマイクロマグネティックシミュレータについて紹介された.磁性体中の磁区形成などミクロスケールでの現象が計算でき,保磁力のようなマクロな特性に与える影響を解析できることが示された.また,永久磁石の開磁路測定データから反磁界の影響を補正する技術が紹介され,開磁路測定しかできない高保磁力磁石において,反磁界補正技術を適用することで,減磁曲線を高い精度で得られることが示された.

文責:田中雅章(名工大),額田慶一郎(パナソニック インダストリー),
沼倉凌介(マグネスケール),萩原将也(東芝),堀川高志(愛知製鋼)

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