第244回研究会/第7回磁気センサ専門研究会報告
「磁性金属の異常ホール・ネルンスト効果と磁気および熱流センサへの応用」
日時:2023年9月15日(金)13:00~16:30
場所:東北大学電気通信研究所ナノ・スピン総合研究棟・オンライン開催(Zoom)
参加者:55名(現地:22名,オンライン:33名)
巨大磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果を利用した,磁気抵抗型のセンサ素子の高感度化が進んでいるものの,複雑な多層膜構造を用いていることで低コスト化が難しい側面がある.一方,シンプルな素子構造でありながら高性能な磁気および熱流センサ素子へと応用出来る事から,大きな異常ホール・異常ネルンスト効果を発現する材料研究が注目されている.本研究会では,異常ホールおよび異常ネルンスト効果の解説と,最近の材料開発およびセンサ素子応用に向けた研究の進展を6名の講師に講演いただいた.研究会には50名を超える研究者・技術者が参加し,活発な議論がなされた.
- 「異常ホール効果の基礎」
○佐久間昭正(東北大)異常ホール効果の起源に関して微視的立場から解説がなされた.特に,内因性機構に関してはトポロジカル相など近年の量子物性の発展における要諦の一つとなっていることから,関連する周辺の物理も含めた詳細な説明がなされた.
- 「異常ネルンスト効果の基礎」
○水口将輝(名大)
異常ネルンスト効果の基礎的な原理とその物理について詳細な解説がなされた.また,異常ネルンスト効果を示す材料の諸特性や,異常ホール効果との相関などについて,最新の研究報告を交えながら多岐にわたる紹介がなされた.
- 「反強磁性ワイル半金属の巨大横応答とその制御」
○中辻 知(東大)
反強磁性ワイル半金属として注目されるMn3Snが示す室温巨大異常ホール効果と,それを利用した様々なスピントロニクスデバイスの開発の状況について紹介がなされた.さらに,ワイル半金属で発現する新現象とその制御に関する進展が紹介された.
- 「Fe-Sn薄膜素子が示す異常ホール効果と磁気抵抗効果を用いた磁気センサ応用」
○塩貝純一(阪大)
Fe-Sn二元系合金のアモルファス薄膜において,純Feの数倍大きい異常ホール効果を室温下で観測した結果が報告された.この大きな異常ホール効果のメカニズムと,異常ホール効果を活用した磁気センサ応用に関する研究成果について紹介がなされた.
- 「異常ホール効果を用いた磁気記録再生ヘッド」
○中谷友也(NIMS)
トポロジカル強磁性材料における巨大な異常ホール効果を用いることで,トンネル磁気抵抗ヘッドに代わる,超高密度ハードディスク用の再生ヘッドの実現が期待されている.講演では,異常ホール効果を利用した再生磁気ヘッドのポテンシャルと課題について紹介がなされた.
- 「異常ネルンスト効果を用いた超低熱抵抗熱流センサの開発」
○桜庭裕弥(NIMS)
磁性材料が示す異常ネルンスト効果を利用することで,従来型のゼーベック熱流センサの問題を一挙に打破する革新的熱流センサが実現できる可能性がある.異常ネルンスト効果を利用する利点と,近年の試作センサの性能と今後の展開について紹介がなされた.