第241回研究会/第8回バイオマグネティックス専門研究会報告
「磁性材料を活用したバイオ・医療応用」
日時:2023年3月29日(水)13:00~16:35
場所:オンライン開催(Zoom)
参加者:28名
磁気を利用したバイオ・医療応用は,磁気工学の主要な研究トピックスのひとつである.高感度磁気センサを用いた生体計測や磁気粒子イメージングといった極めて実用的なバイオ・医療応用に関する研究成果が近年活発に報告され始めてきている.本研究会では医療現場,企業,大学の分野から5名の講師をお招きし多角的な観点で磁気と医療に関する最新の研究動向と今後の展望をご講演いただいた.
- 「生体向け高感度磁気粒子イメージング装置の開発」
○野村航大(三菱電機)
PET (Positron Emission Tomography) に代わる認知症画像診断として,講演者らが開発した高感度磁気粒子イメージング装置および,生体内の病態に特異的に結合する機能性磁気ナノ粒子の作製方法が紹介された.また,2つの異なる粒径の磁気ナノ粒子の弁別手法として,緩和時間の違いに起因する交流励起磁界に対する両者の磁化の位相差を検出する新しい手法が紹介され,開発した磁気粒子イメージング装置を用いたイメージング実験により本手法の有効性が示された.
- 「磁気温熱治療用ナノ発熱体の材料デザイン」
○間宮広明(物材機構)
腫瘍選択的がん温熱療法のナノサイズの発熱体としての磁性ナノ粒子の研究開発について,副作用を考慮した磁場強度制限を念頭に現状と課題が紹介された.現在開発されている粒子をそのまま用いても,小さな腫瘍に十分なダメージを与えることが難しく,要求される発熱量を得るためには磁場強度,励起周波数,材料特性による理論上限に近い発熱量が求められ,それを実現するためには磁性ナノ粒子の磁気異方性を均一に制御する必要があることが示された.
- 「高周波駆動薄膜磁界センサの開発とバイオ計測応用」
○薮上 信(東北大)
講演者らが開発した高周波駆動薄膜磁界センサの動作原理についての紹介につづいて,磁界検出分解能および心磁界の計測結果が示された.次に,磁性薄膜に適切なスリットを入れることでインピーダンス整合を行い,センサの高感度化が可能であることが示された.最後に,磁性ナノ粒子を用いた高感度な細菌検出の結果およびポータブル微生物検出器の開発状況の紹介された.
- 「低磁場MRIの近況」
○寺田康彦(筑波大)
低磁場MRI (magnetic resonance imaging) の技術開発の近況の紹介を兼ねて,磁場強度によって分類される low field (100 ~ 500 mT), very low field (10 ~ 100 mT), ultra low field (10 mT以下) の各MRI技術の特徴や装置構成が解説された.期待される応用や,500 mT以上のhigh field MRIに対する利点なども述べられた.また,講演者らによる車載型の200 mT-MRI装置の開発と,野球肘のスクリーニング検査への応用が紹介された.
- 「経頭蓋磁気刺激(TMS)を応用した精神疾患の治療の可能性」
○野田賀大(慶大)
TMSは精神疾患,特にうつ病への臨床応用が進んでおり,薬物治療が奏功しない(治療抵抗性の)うつ病に対しても有効である点が注目されている.TMS治療では,大脳の背外側前頭前野をターゲットとして,10 Hz以上の頻度で反復的に刺激が与えられること,また,研究レベルではシータバーストなどの特徴的な時間パターンの刺激が用いられることが紹介された.用いられるコイルも8の字コイルをはじめ,深部刺激に適したコイルや鉄心入りのコイルなどの工夫がなされているとのことである.最後に,近年は強迫性障害やコロナの後遺症などにもTMSでの治療が試みられており,応用が拡大していることが紹介された.