210.01
[分野] 磁気応用
[タイトル] 磁気抵抗効果(MR)センサアレイによる脳磁計測(続報) [出典] Tetsuro Tatsuoka, Shigenori Kawabata, Jun Hashimoto, Yuko Hoshino, Kensuke Sekihara, Tomohiko Shibuya, Yoshiaki Adachi: “Measurement of Somatosensory Evoked Magnetic Fields Using Adjustable Magnetoresistive Sensor Array,” TechRxiv, Preprint, 2023. https://doi.org/10.36227/techrxiv.22850834.v2 [概要] Tatsuoka らのグループは被験者の頭部形状に合わせて位置調整が可能なMRセンサ用ホルダを開発し、30チャンネルのMRセンサアレイによる体性感覚誘発脳磁場の計測に成功したと発表した。 [本文] 脳内の神経活動にともなって生じる磁気信号を観測する脳磁計における新しい磁気センサとして近年、磁気抵抗効果(Magnetoresistive: MR)センサが期待されている(参照:技術情報サービス第189,197,202号など)。エムイーツール株式会社のTatsuokaらの研究グループはこれまでに、MRセンサを用いた脳磁計の開発を進めてきた(技術情報サービス第189号)。従来の脳磁計には主に超伝導量子干渉素子(SQUID)センサが利用されており、被験者の頭部形状に合わせてセンサアレイの位置を調整することはできなかった。一方、冷却を必要としないMRセンサは自由に位置を変えることができるため、被験者頭表に近づけることで信号/雑音比を高めることができ、かつ、センサアレイを観測領域に合わせて配置することで信号分布を効率良く観測する事が可能となる。著者らは全頭部範囲にMRセンサを配置可能なヘルメット型のセンサホルダを開発した。このホルダにセンサを固定する際には頭表の法線方向に対して約20 mmの範囲でセンサ位置を調整することが可能である。
本論文の脳磁図計測実験では体性感覚誘発磁場(SEF: Somatosensory evoked magnetic field)を観測するため、頭頂部から左側頭部の範囲にかけて 30本のMRセンサが配置された(図1)。SEF計測実験では被験者の右手正中神経に対する体性感覚刺激をおこない、電気刺激の約20 ms 後に現れるM20と呼ばれる反応に関連するSEF信号を観測した。3名の被験者に対して計測実験を実施し、いずれの被験者においても生理的に妥当な信号波形と磁場分布が得られ、マルチチャンネルのMRセンサアレイによるSEF計測の成功が報告された。今後、SEF信号だけでなく様々な観測実験により、MRセンサの生体磁気計測応用範囲を大きく加速させることが期待される。
(金沢工業大学 小山大介) Fig. 1 Appearance and structure of a sensor holder and MR sensor array.
Fig.1はCreative Commons Attribution 4.0 Licenseのもとに出典論文より転載。
[タイトル] 磁気抵抗効果(MR)センサアレイによる脳磁計測(続報) [出典] Tetsuro Tatsuoka, Shigenori Kawabata, Jun Hashimoto, Yuko Hoshino, Kensuke Sekihara, Tomohiko Shibuya, Yoshiaki Adachi: “Measurement of Somatosensory Evoked Magnetic Fields Using Adjustable Magnetoresistive Sensor Array,” TechRxiv, Preprint, 2023. https://doi.org/10.36227/techrxiv.22850834.v2 [概要] Tatsuoka らのグループは被験者の頭部形状に合わせて位置調整が可能なMRセンサ用ホルダを開発し、30チャンネルのMRセンサアレイによる体性感覚誘発脳磁場の計測に成功したと発表した。 [本文] 脳内の神経活動にともなって生じる磁気信号を観測する脳磁計における新しい磁気センサとして近年、磁気抵抗効果(Magnetoresistive: MR)センサが期待されている(参照:技術情報サービス第189,197,202号など)。エムイーツール株式会社のTatsuokaらの研究グループはこれまでに、MRセンサを用いた脳磁計の開発を進めてきた(技術情報サービス第189号)。従来の脳磁計には主に超伝導量子干渉素子(SQUID)センサが利用されており、被験者の頭部形状に合わせてセンサアレイの位置を調整することはできなかった。一方、冷却を必要としないMRセンサは自由に位置を変えることができるため、被験者頭表に近づけることで信号/雑音比を高めることができ、かつ、センサアレイを観測領域に合わせて配置することで信号分布を効率良く観測する事が可能となる。著者らは全頭部範囲にMRセンサを配置可能なヘルメット型のセンサホルダを開発した。このホルダにセンサを固定する際には頭表の法線方向に対して約20 mmの範囲でセンサ位置を調整することが可能である。
本論文の脳磁図計測実験では体性感覚誘発磁場(SEF: Somatosensory evoked magnetic field)を観測するため、頭頂部から左側頭部の範囲にかけて 30本のMRセンサが配置された(図1)。SEF計測実験では被験者の右手正中神経に対する体性感覚刺激をおこない、電気刺激の約20 ms 後に現れるM20と呼ばれる反応に関連するSEF信号を観測した。3名の被験者に対して計測実験を実施し、いずれの被験者においても生理的に妥当な信号波形と磁場分布が得られ、マルチチャンネルのMRセンサアレイによるSEF計測の成功が報告された。今後、SEF信号だけでなく様々な観測実験により、MRセンサの生体磁気計測応用範囲を大きく加速させることが期待される。
(金沢工業大学 小山大介)