第238回研究会報告
「マテリアルズインフォマティクスの進展と磁性材料への応用」
日時:2022年10月25日(火)13:00~17:20
場所:オンライン開催(Zoom)
参加者:25名
近年,機械学習などの情報処理技術を材料開発に適用し,材料の高性能化や新規材料の探索などを高効率化するマテリアルズインフォマティクス(MI)が注目を集めている.磁性材料の分野においてもMIを活用した取り組みが精力的に進められており,今後の更なる発展が期待される.本研究会では,関連する分野から6名の研究者の方々に講演いただいた.MIの現状についての詳細な解説や,材料開発への具体的な適用例,将来展望などが示され,大変興味深いものであった.聴講者からの高い関心もうかがわれ,活発な質疑応答がなされた.
- 「スーパーコンピュータ「富岳」による大規模物性データの自動創出」
○福島鉄也1,赤井久純1,知京豊裕2,木野日織2(1 東大,2 物材機構)
Korringa-Kohn-Rostoker (KKR)グリーン関数法に基づいた自動網羅計算による磁気物性データベースの構築と,データ解析についての研究結果が紹介された.講演者らのデータベースは,不規則系磁性材料の磁化,キュリー温度,磁気異方性,電気抵抗率等の磁性材料開発にとって利用価値の高い物性データを含むことが特徴であることが紹介された.さらに,頻出パターンマイニング等のデータ科学的手法を用いることにより,磁気特性を決定する支配因子や電気抵抗率の法則性の発見に成功したことが示された.
- 「自律的に研究を進めるシステムの展望と課題」
○一杉太郎(東大,東工大)
講演者らが取り組んでいる機械学習とロボットを活用した自動・自律実験について紹介された.講演では,ベイズ最適化による合成条件の決定から,物質合成,物性測定,測定結果のフィードバックまでの一連のループを自動で繰り返す自律実験が解説された.具体例として,講演者らが開発した成膜装置と各種測定装置,ロボットアームからなるシステムと,自律実験により二酸化チタン薄膜の電気伝導度を最大化した実験結果が示された.講演では今後の展望や自律実験の成功に向けたポイントも紹介された.
- 「機械学習援用分子線エピタキシー(ML-MBE)による磁性酸化物ワイル半金属SrRuO3の物性開拓」
○若林勇希1,Yoshiharu Krockenberger1,大塚琢馬2,澤田 宏2,谷保芳孝1,山本秀樹1
(1 NTT 物性科学基礎研究所,2 NTT コミュニケーション科学基礎研究所)講演者らが開発した,分子線エピタキシー技術とベイズ最適化とを組み合わせた機械学習援用分子線エピタキシー(ML-MBE)技術が解説された.講演では,ML-MBE技術を用いて作製した,世界最高の残留抵抗比をもつ高品質な磁性酸化物ワイル半金属SrRuO3薄膜の例が示された.さらに,磁性ワイル半金属状態に特徴的な量子的な電気伝導特性を観測し,ワイル粒子の存在を実証したことが示された.また,ガウス過程回帰を用いてスペクトル形状を予測しながら次の計測データ点を決定する,スペクトル測定の高効率化手法も紹介された.
- 「Data Driven Development of Magnetic Materials」
○Anton Bolyachkin,H. Sepehri-Amin,Tadakatsu Ohkubo(NIMS)
機械学習を用いた,磁気冷凍材料向けレアアースフリーFe2P型化合物の開発が紹介された.文献とNIMSでの実験データから収集した603種の試料の化合物データをデータセットとして機械学習を行うことで,化合物のキュリー温度(TC)を精度良く予測できることが示され,予測結果に基づいて作製したMn1.7Fe0.27Co0.03P0.63Si0.37組成の化合物のTCが(Mn,Fe)2(P,Si)系の化合物でこれまで報告されている中で最も低い値であったことが示された.講演では,熱アシスト磁気記録用のFePtグラニュラーのハイスループット特性評価についても紹介された.
- 「自動実験とデータ解析によるスピン熱電変換材料の探索」
○石田真彦(NEC)
講演者らによるコンビナトリアル型の実験データ取得とその自動化の取り組みとして,スパッタ共蒸着法を用いた組成傾斜薄膜の成膜と,基板上での評価システム構築および評価結果について解説された.熱電変換性能の測定を行うために,オンチップのジュール加熱機構をリソグラフィ技術によって作製する素子作製プロセスと,ウェハチャック直下に面内磁場を印加する電磁石を実装したセミオートプローブシステムを組み合わせた評価システムの開発が紹介された.また,異種混合学習を用いたデータ解析についても解説された.
- 「画像認識による磁気パラメータの推定」
○河口真志1,田辺賢士2,山田啓介3,澤 拓哉2,長谷川 隼1,林 将光1,仲谷栄伸4
(1 東大,2 豊田工大,3 岐阜大,4 電通大)畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による教師あり機械学習を用いて,磁区画像からジャロシンスキー・守谷相互作用(DMI)を推定する,講演者らの取り組みが解説された.マイクロマグネティックシミュレーションにより生成した磁区画像を教師データとしてCNNを最適化することで,精度良くDMIパラメータの値を推定できることが示された.また,実験で取得した磁区画像から,最適化したCNNを用いてDMIパラメータの値を推定すると,測定で得られた値をおおむね再現できることが示された.