203.01
【分野】スピントロ二クス
【タイトル】 新しいスピン流生成現象を発見し磁場無しで垂直磁化反転を実証
【出典】Shutaro Karube, Takahiro Tanaka, Daichi Sugawara, Naohiro Kadoguchi, Makoto Kohda and Junsaku Nitta
“Observation of spin-splitter torque in collinear antiferromagnetic RuO2”
Physical Review Letters 129, 137201 (2022)
DOI: 10.1103/PhysRevLett.129.137201
東北大学プレスリリース2022年9月30日
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/09/press20220930-01-spin.html
【概要】 東北大学大学院工学研究科の輕部修太郎助教、田中貴大修士課程学生、好田誠教授、新田淳作名誉教授らは、ルテニウム酸化物(RuO2)の反強磁性磁気秩序によって生成される全く新しいスピン流生成現象を発見し、さらにそれを応用することで、外部磁場を全く必要としない垂直磁化反転を実証した。本研究成果により、外部磁場無く効率的かつ、簡便なデバイス構造で磁化反転動作が可能となるため、情報保持や情報処理を担う磁気デバイスの高性能化が期待される。
【本文】 近年の目覚ましい高度情報化に伴い、高密度情報担体や、高効率情報処理の実現は喫緊の課題となっている。なかでも電力供給がなくても記憶内容を保持できるハードディスクドライブ(HDD)や磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)などの磁気デバイスの高性能化は重要である。しかし従来のスピントロニクス技術では垂直磁化反転に外部磁場のアシストが必要であり、応用上の大きな壁となっていた。
東北大学大学院工学研究科の輕部修太郎助教、田中貴大修士課程学生、好田誠教授、新田淳作名誉教授らは、ルテニウム酸化物(RuO2)の薄膜結晶の高品質化を実現し、反強磁性磁気秩序を利用した新奇スピン流生成現象を実験的に発見した。また、それを活用することで、不揮発磁気メモリなどの動作原理にとって重要な磁化反転現象を外部磁場無く効率的に行えることを実証した。本スピン流についてはRuO2中の反強磁性磁気秩序と、そのルチル結晶構造由来の結晶場によって形成されるスピンスプリットバンド構造によって生成され得ること(スピンスプリッター効果)が理論的に予想されていた。従来のスピンホール効果ではスピン依存の電子散乱を引き起こすために必ずスピン軌道相互作用を介す必要があったが、本スピンスプリッター効果は純粋な反強磁性磁気秩序のみに依存し、スピン軌道相互作用を全く必要としないため、スピン流生成機構の新概念と言える(図)。研究グループは高品質なRuO2薄膜結晶を作製し、(100), (101), (001)面など様々な面方位によってスピン流生成現象を詳細に調べた。その結果、RuO2 (101)面の場合では、電流印加方向をx方向とした場合に、x,y,z方向全方位に対してスピン偏極したスピン流が生成可能であることを明らかにした。そして、そのz方向にスピン偏極したスピン流を用いることで、外部磁場不要な磁化反転を実証することに成功した。本成果を基軸として、今後高性能な磁気デバイス開発がさらに盛んに行われていくことが期待される。
(東北大学 梅津理恵)