第237回研究会/第84回スピントロニクス専門研究会報告

「スピントロニクスのエナジーハーベスティングへの展開」

日時:2022年7月20日(水)13:00~17:20
場所:オンライン開催(Zoom)
参加者:32名

 近年,熱・光・電波・振動など様々な形態で環境中に存在するエネルギーを電力に変換するエナジーハーベスティング技術が注目されている.未利用のエネルギーから微弱電力を生み出す技術は,例えば無線センサーを利用したIoTシステムに適用可能な電源として活用が期待される.様々なエナジーハーベスティング技術の中で,磁性やスピンの性質を利用した研究開発も多数報告されている.本研究会では関連する分野でご活躍の6名の講師に,磁性やスピンを利用したエネルギー変換やエナジーハーベスティングの周辺技術についてご講演いただいた.理論,実験,社会実装における課題など,多岐にわたる内容が紹介され,専門分野の垣根を超えた質疑応答と議論が活発に行われた.

  1. 「磁性を活用した高性能熱電材料および発電デバイスの開発」
    ○森 孝雄(物材機構)

     熱電材料の実用化に向けて,高性能熱電材料およびその材料を用いた発電モジュールの高性能化が重要な研究課題となっている.磁性を活用した熱電材料の高性能化原理(マグノンドラッグ,パラマグノンドラッグ,スピンエントロピー,スピン揺らぎなど)や新規高性能材料,種々の形態(バルク型,平面型,フレキシブル型)のモジュール開発の進展について説明がなされた.

  2. 「スピンオッシレータを用いたWi-Fi周波数の電波からの発電」
    ○深見俊輔(東北大)

     Wi-Fiの周波数帯の電磁波からの環境発電が可能な磁気トンネル接合素子(スピンオッシレータ)とその接続技術について説明がなされた.8個の素子を直列接続した構造を用い,2.45 GHzの電磁波からの環境発電でLEDを光らせる原理検証実験に成功した結果が示された.

  3. 「温度勾配下のマグノン生成と磁性熱電効果」
    ○大江純一郎(東邦大) (1慶大,2TDK)

     磁性体に印加された温度勾配によって駆動されるマグノンドラッグ効果について理論的な研究内容が紹介された.解析計算の難しい温度勾配中の磁化ダイナミクスを数値的に求めることで,例えば一様磁化中やらせん磁性体中に発生するマグノンドラッグ効果が解析可能であることが示された.

  4. 「ゼーベック駆動横型熱電効果」
    ○内田健一(物材機構)

     熱電変換技術の汎用性の向上や応用対象の拡張に向けて,熱流と直交する方向に起電力が生成される横型熱電効果に関する研究が活発化している.磁性体中の横型熱電効果である異常ネルンスト効果に関する研究動向がレビューされた後,2021年に考案・実証されたゼーベック駆動横型熱電効果に関する最近の進展について紹介がなされた.

  5. 「薄膜ナノ構造における振動-スピン変換起電力」
    川田拓弥, 河口真志, ○林 将光(東大)

     スピン流は様々な物理量と相互変換できることが分かっており,新たに注目を集めているのが力学的回転によるスピン流生成である.圧電基板上に重金属と強磁性体の二層膜を成膜した試料を作製し,表面弾性波によるスピン軌道相互作用を介してスピン流が生成する現象(音響スピンホール効果)を実験的に発見した結果が示された.

  6. 「エナジーハーベスティング素子利用のIoT機器をPoC・社会実装するにあたっての課題」
    ○宮原康之(エイブリック)

     講演者のご所属であるエイブリック株式会社で開発された,エナジーハーベスティング向け蓄電昇圧技術であるCLEAN-Boost®技術の紹介がなされた.さらに,CLEAN-Boost®技術を体験してもらうためのデモ機プロモーションの中で見えてきた,エナジーハーベスティング素子を利用したIoT機器のコンセプト実証や,社会実装を行うにあたっての課題とその解決方法について説明がなされた.

文責:岡田泰行(三菱電機),小野輝男(京大),谷川博信(ソニーセミコンダクタ)