200.01
【分野】磁性材料
【タイトル】東北大発の磁性材料“センダスト合金”、発見から90年目で再脚光
【出典】
・Shoma Akamatsu, Mikihiko Oogane, Masakiyo Tsunoda, and Yasuo Ando, “Guidelines for attaining optimal soft magnetic properties in FeAlSi films”, Applied Physics Letters, 120.24.242406 (2022).
・東北大学プレスリリース https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/06/press20220617-02-alloy.html
【概要】バルクのセンダスト合金は、軟磁気特性を示す化学組成が組成図上の一点のみであり、その作製が非常に困難であることが従来の常識だった。東北大学大学院工学研究科博士後期課程2年の赤松 昇馬氏と大兼 幹彦教授らは、センダストの軟磁気特性発現機構の謎を解明し、原子規則度の制御によって、広い組成範囲で軟磁気特性を実現した。
【本文】
センダスト合金は、1932年に東北大学金属材料研究所の増本量名誉教授、山本達治氏により発見された、優れた軟磁気特性を示す磁性材料である。増本名誉教授らは、FeAlSi合金の組成を微調整した数百種類もの試料を作製し、何度も実験を繰り返し、軟磁気特性が著しく向上する組成(センダスト中心組成と呼ばれる)を有する、 Fe73.7Al9.7Si16.6センダスト合金を発見した。優れた軟磁気特性を示すセンダストは、バルク状態でHDDの磁気ヘッドなどに用いられてきたが、以降長らくセンダストに関する新たな研究報告例はなかった。
本研究では、センダスト合金を最先端スピントロニクス材料として応用するという、極めて挑戦的な試みを実施した。ナノメートルオーダーの膜厚のセンダスト合金薄膜を作製し、その磁気特性を詳細に調査した結果、バルクと同等以上の軟磁気特性を示すセンダスト薄膜の作製に世界で初めて成功した。バルク状態では、優れた軟磁気特性を示すセンダスト中心組成は組成図上の一点のみであり、その作製が非常に困難であることが従来の常識だった。しかし、本研究により、その軟磁気特性発現の機構が、薄膜試料中のD03規則構造の割合と、Al濃度のバランスであることが解明された。具体的には、原子規則度の低下に伴い、軟磁気特性が発現するAl濃度が増加することが明らかになった(Figure 1)。薄膜における原子規則度は成膜後の熱処理温度によって比較的容易に制御可能なため、従来よりも極めて広範囲の組成域でセンダスト薄膜の優れた軟磁気特性が実現可能であることが示された(Figure 2)。
本研究で開発されたセンダスト薄膜は、脳磁計などへの応用が期待されるトンネル磁気抵抗(TMR)センサへの応用が可能である。既存の材料よりもさらに優れた軟磁気特性を示すため、その感度を飛躍的に向上させる新材料として期待される。
(東北大学 赤松昇馬)