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【分野】磁気記録
【タイトル】エネルギーアシスト磁気記録実用化の現状
【出典】Seagateブログ https://blog.seagate.com/craftsman-ship/hamr-next-leap-forward-now/
電子デバイス産業新聞 https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=2758
AnandTech https://www.anandtech.com/show/13764/western-digital-2019-16tb-hdd-mamr-hamr
The Register https://www.theregister.co.uk/2018/12/07/toshiba_goes_to_mamr/
【概要】最近、ハードディスクドライブ(HDD)メーカーからエネルギーアシスト記録を利用した大容量HDDリリースに関する発表が相次いでいる。メーカーからのプレスリリースやインターネット記事をふまえて、エネルギーアシスト記録HDDの実用化に向けた開発の現状を概観する。
【本文】HDDの面記録密度は2015年ごろに1 Tbit/in2を超え、現在では1枚の2.5インチプラッタに1 TBの容量をもつモバイル用HDDにおける1.2 Tbit/in2程度が最高である。1ドライブ当たりの記録容量は東芝の16 TBが最大であり、9枚の3.5インチプラッタを筐体に搭載することで達成している。今後HDDの容量を増やすには、エネルギーアシスト記録による面記録密度の増大が不可欠であり、熱アシスト記録(HAMR)とマイクロ波アシスト記録(MAMR)の2方式が期待される。HAMRはレーザーに誘起された金の近接場光により、高結晶磁気異方性記録媒体(FePtグラニュラー媒体)を瞬間的にキュリー温度付近まで加熱し、保磁力を低減することで磁化反転をアシストするのに対し、MAMRでは書き込みヘッドに搭載されたスピントルク発振素子(STO)が発生するマイクロ波帯域の交流磁場による磁化反転アシスト効果を利用する。
HAMRを本命技術と位置づけているのがSeagateである。「来年製品化する」と言い続けている印象があるが、同社のブログによるとすでに4万台のドライブ試作し、クラウドサービス会社などでテストを重ねているという。ヘッドおよび媒体の信頼性が最大の難関であるが、筆者がSeagateの技術者から聞いたところでは、HAMR特有の(熱に起因する)不良モードの発生頻度が減り、現行HDDと同程度まで改善しているという。同社は2018年末に16 TBのHAMR HDDの製造立ち上げを発表しており、2020年からの量産を予定している。なお、スピンスタンド実験での記録密度は2.38 Tbit/in2に到達しており、今後HDDへの実装が期待される。
Western Digitalおよび東芝はHAMRとMAMRの両方を開発しているが、MAMRを次世代の本命としているようである。Western DigitalによるとMAMRはHAMRの100倍信頼性が高いという。Western DigitalのMAMR開発は同社が2012年に統合した日立GSTがNEDOなど国家プロジェクトの支援でおこなった研究を受け継いだものであり、東芝のMAMR開発はヘッドメーカーTDKとの密接な連携の賜であることは、日本の研究者・技術者にとって感慨深い。両社とも技術的な詳細は明らかにはしていないが、すでにMAMR HDDのサンプル出荷を始めており、数年以内に大容量HDDを製品化すると発表している。
MAMRがHAMRに比して記録密度の将来性がどの程度あるかは興味深いところである。記録密度の増大には、結晶磁気異方性の高い記録媒体が不可欠であるが、そのような媒体でのMAMRには数10 GHz交流磁場が必要になるからである。そのような高い発振周波数のSTOはまだ開発されておらず、磁化・磁気異方性・スピン分極率の観点からのSTO材料の開発が期待される。また、HAMRやMAMRにより超高記録密度が現実となると、次は再生ヘッド技術が重要な開発テーマになり、HDD関連の材料研究が再び活発になると予想される。
(物質・材料研究機構 中谷友也)