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【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】反強磁性絶縁体を介した長距離スピン輸送

【出典】
R. Lebrun, A. Ross, S. A. Bender, A. Qaiumzadeh, L. Baldrati, J. Cramer, A. Brataas, R. A. Duine & M. Kläu
“Tunable long-distance spin transport in a crystalline antiferromagnetic iron oxide”
Nature 561, 222–225 (2018). DOI: 10.1038/s41586-018-0490-7
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0490-7
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/94107

【概要】
 R. Lebrunらは,反強磁性絶縁体であるヘマタイトを介してスピン情報が数十マイクロメートル以上もの長距離に渡って輸送されることを実証した。得られた成果は,超高速・低消費電力といった特徴を持つ反強磁性絶縁体ベースのスピン論理素子実現へ向けての重要な第一歩である。

【本文】
 スピントロニクスは,従来の電荷輸送に変わって,スピン角運動量の輸送を利用する。このため,スピンの効率的な輸送,長距離に渡る輸送が求められている。スピンの輸送としては,伝導電子による伝導電子スピン流,マグノン(スピン波)によるマグノンスピン流がある。これまで伝導電子スピン流に関して数限りない研究がなされてきたが,マグノンスピン流の研究も増えてきている。
 最近では,フェリ磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネットYIG(Y3Fe5O12)において,マグノンスピン流による長距離スピン輸送が観測されている。一方,反強磁性体は正味の磁気モーメントを持たないため,強磁性体・フェリ磁性体に比べて外部磁場の影響を受けにくく,またテラヘルツ領域での高速動作が可能といった長所を持つ。本研究でR. Lebrunらは,反強磁性絶縁体であるヘマタイト(α-Fe2O3)を用いた長距離スピン輸送を実証し,また磁場印可によりスピン輸送を制御できることを示した。
 本研究では,α-Fe2O3薄膜上に白金Pt細線が蒸着され,スピンホール効果・逆スピンホール効果を用いることでスピン流の注入・検出が行われている。細線間の距離に出力電圧がどのように依存するかを調べることで,200Kの温度においてマグノンによるスピン輸送が数十マイクロメートル以上もの長距離に及ぶことが明らかにされている。また,外部磁場を印可することで,局所的な磁気モーメントの向きが変化し,これによりスピン輸送が影響を受けることも示されている。本研究で得られた成果は,反強磁性絶縁体に基づくスピン論理素子の実現へ向けての第一歩となり得るものである。

【MSJ関連情報】
○まぐね Vol. 13, No. 5 (2018).
 特集 “反強磁性スピントロニクスの新展開”
 https://www.magnetics.jp/publication/mag_2018_13_05/
〇第65回スピンエレクトロニクス専門研究会 2017年11月22日
 “反強磁性スピントロニクスの新展開”
 https://www.magnetics.jp/special/spinelec_065/

(広報理事・幹事 伊藤博介,サイモン・グリーブス,桜田新哉,川戸良昭)

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