日本応用磁気学会第114回研究会報告
「パラダイムシフト期を迎えた高周波電磁計測技術」
日 時:2000年3月17日(金)10:00~17:00
場 所:機械振興会館
参加者:26名
プログラム:
- 総論
山口正洋(東北大)
- 高周波磁気計測用多層平面コイルとその応用
山口正洋(東北大)
- 電磁応用の非破壊検査
橋本光男(職開大)
- 集積回路の電磁放射計測に関する規格動向
渡辺 毅(NEC)
- 複合磁性材料を用いた貫通型EMIフィルタの減衰特性
秋野直冶,篠原槇一,佐藤利三郎(環境電磁技研)
- 電源トランス用フェライトの高周波損失と計測技術
後藤聡志,河野貴史,藤田明(川崎製鉄)来島慎一,福田豊(川鉄フェライト)
- 逆問題的手法による高周波電流の可視化技術
齋藤兆古(法政大)
- まとめ
荒井賢一(東北大)
近年、携帯情報機器、個人情報端末機器等の急速な進展に伴って、数百MHz~1GHzを越す超高周波領域における磁性体の応用分野が拡大している。本研究会の主旨は、このような分野における、磁性材料の高周波特性評価技術、渦電流探傷(Eddy Current Testing:ECT)技術、更にはマイクロ領域における電磁環境両立性(Electromagnetic Compatibility:EMC)解決のための、高周波磁界計測技術とその逆問題解析技術等、高周波電磁計測技術の最前線を紹介し、議論することにある。
まず、山口氏により、材料評価技術の最前線からマイクロEMCまで、磁性体の高周波応用の動向、及び高分解能磁界計測法に関する総論が述べられた。
引き続き、同氏により、高周波磁気計測用多層平面コイルとして、シールティッドループコイルの基礎特性とその応用に関する講演があった。応用に関しては、1MHz~3.5GHz帯域薄膜パーミアンス測定装置の開発、近傍磁界2次元マッピングシステムの製品化、並びにプリント配線板やLSIパッケージからの高周波磁界計測を行った結果が述べられた。
次いで、橋本氏は、配管を検査対象とした各種電磁応用非破壊検査手法について、それぞれの原理と特徴等を踏まえ、通常ECT法、リモートフィールドECT法、磁気飽和ECT法、未飽和磁化ECT法、漏洩磁束法の5手法に着目し、現状と開発すべき課題について講演を行った。
渡辺氏は、集積回路の電磁放射計測に関する規格動向に関する講演を行った。つまり、装置におけるEMC規格、半導体へのEMC要求、及び半導体EMCの評価方法の規格化について述べた。また同社で開発中の磁界プローブ法の概要を述べ、プリント回路基板設計に影響されない半導体デバイス単独のRF電源電流の高精度測定が可能なことを述べた。
秋野氏の講演は、複合磁性材料を用いた貫通型フィルタの減衰特性に関するものである。つまり、フェライト系及び金属磁性体系の2種類の複合磁性体を用いた貫通型EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタを作製し、周波数100MHzから15GHzにおける挿入減衰量を測定し、これらの複合磁性体の材料定数と挿入減衰量との関係を調べ、複合磁性体の材料定数が挿入減衰量に及ぼす影響について考察した結果について述べた。
次に、後藤氏は、電源トランス用フェライトの高周波損失の現状、及び低損失化に伴う問題点について概説した。特に、起源が不明確な残留損が500kHz以上で損失の大半を占め、この解明に必要な磁壁や磁区の動的変化を直接解析する手段が乏しく、残留損の低減は困難とのことであった。更に、その高周波損失の測定法、及び標準化についても述べた。
齋藤氏の講演は、磁界から電流を可視化する逆問題的手法に関するものであった。高解像度センサとして、被測定対象の電流が流れるコイルを完全に取り囲まない変形ロゴスキーコイルを用いた。実験は、比較的低周波帯である数百Hz帯の電流で行ったが、GHz帯のセンサが開発されれば高周波電流の可視化も可能であるということであった。
最後に、荒井氏が、高周波電磁計測技術の現状と今後の展望を述べ、総括を行った。
参加者は比較的少なかったが、多数の質問があり、質問時間が不足になった。この分野への関心が高いこと、また、参加者の問題解決に対する姿勢に十分な熱意が感じられた。(八戸工大 坂本禎智)