第153回研究会報告 第15回スピンエレクトロニクス専門研究会共催
「MTJの進展とスピンエレクトロニクスデバイスの展開」
日時:2007年2月27日(火)13:00~17:00
場所:化学会館
参加者:63名
講演内容:
- 「Co基フルホイスラー合金を用いた強磁性トンネル接合の磁気抵抗効果」
手束展規(東北大)
代表的なハーフメタル材料であるCo2FeAl0.5Si0.5フルホイスラー合金薄膜について、これを電極として用いた強磁性トンネル接合(MTJ)のトンネル磁気抵抗(TMR)比や磁気特性がその結晶構造と強い相関性を有することを示し、規則度の高いL21構造を形成したときスピン分極率が増大して高いTMR比(室温220%、5Kで390%)が実現できることを報告した。
- 「強磁性共鳴を用いたMRAMフリー層材料の磁気緩和定数測定」
安藤康夫(東北大)
磁気緩和定数がMRAMの書き込み特性やスピン注入磁化反転の反転臨界電流を決めるパラメータであることを述べ、代表的なフリー層材料であるCo-Fe-B合金や高MR比を示すCo2MnAl、Co2MnSiホイスラー合金などの薄膜について強磁性共鳴による磁気緩和定数の測定・解析結果を報告した。Co-Fe-B合金については単層膜およびスピンバルブ膜状態での緩和定数測定について言及し、特に薄い磁性膜では隣接する層との間に働くスピンポンピング効果の影響を考慮することが重要であることを指摘した。
- 「電流磁場書き込みMRAM技術」
上野修一(ルネサステクノロジ)
混載用メモリとしてのMRAMを設計する立場から電流磁場書き込み型MRAMを評価し、書き込みの高速性、不揮発性などの利点がある一方で、読み出し速度の高速化が課題であることを示した。次いで、読み出し高速化のためのメモリセルアーキテクチャ検討例および高速化に要求されるMTJ膜のTMR比、接合抵抗等の特性を紹介した。更に、高密度化に対する取り組みを示し、電流磁場書き込み型MRAMの限界を超えるには微細セルで書き込み電流を低減できるSTT(Spin Transfer Torque)-MRAMが有望であると述べた。
- 「スパッタ製膜MgO障壁強磁性トンネル素子の磁気抵抗効果とスピントルク磁化反転」
早川純(日立)
スパッタ製膜で作製したMgO系MTJについて、まず保磁力差型固定層を持つ(Co25Fe75)80B20/MgO/ (Co25Fe75)80B20-MTJを450℃以上の高温で熱処理することにより室温で500%、5Kで1010%という世界最大で、理論予測に近いTMR比を実現したことを述べた。次いで、MgO障壁と積層フェリ自由層を用いた微細MTJで、熱揺らぎ安定性の指標E/kBTが60以上でありながら臨界反転電流密度106A/cm2台となるスピン注入磁化反転を実現したことを報告した。
- 「スピントルクダイオードと負性抵抗効果」
前原大樹(キヤノンアネルバ)
MTJ素子は、マイクロ波領域において交流信号からDC電圧信号を取り出すスピントルクダイオード効果を持つことを示し、この現象がスピントルクによるスピンの歳差運動に起源を持つことを利用してスピン注入磁化反転の臨界電流値の見積もりや磁化反転ばらつき、スピンダイナミクスなどの評価手法になることを実験結果とともに紹介した。更にMTJ素子が負性抵抗を示すことをシミュレーションで予測し、実証することで新しい高周波磁気デバイスへの応用の可能性を示した。
- 「非局所手法を用いたスピンホール効果の電気的検出」
木村崇(東大)
強磁性/非磁性プレーナー接合構造を用いたスピン注入素子におけるスピンホール効果の実験を紹介した。最初にプレーナーな構造での非局所スピン注入法の有効性を示し、次いで実験結果に基づく非局所スピンバルブ効果、スピンシンク効果を説明した後、Pt細線の大きなスピンシンク効果を積極的に用いることによるスピンホール効果の室温での観測を報告した。
本研究会では、MgOバリア層やハーフメタル材料の登場で現在も研究の進展が著しいMTJとこれを用いたスピンエレクトロニクスデバイスの基礎から応用・開発について、またスピントルクダイオードやスピンホール効果という新たなデバイス創出のための物理研究について、第一線の研究者による講演がなされた。各講演とも研究の背景から最新の成果がわかりやすくまとめられ、充実した内容であった。議論も活発になされ、急速に進展しているスピンエレクトロニクス研究に対する関心の高さをうかがい知ることができた。ご多忙の中快く講演いただいた講師の皆様、活発にご討論いただいた参加者に紙面を借りて深く感謝したい。